怖い?かわいい?自然が造形した幽玄のともし火「ホオズキ」の今昔 〈tenki.jp〉|AERA dot. (アエラドット)

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怖い?かわいい?自然が造形した幽玄のともし火「ホオズキ」の今昔

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朱色も鮮やかで何ともキュートなホオズキの鉢仕立て

朱色も鮮やかで何ともキュートなホオズキの鉢仕立て

こんなにかわいらしいホオズキの花。ナス科の仲間です

こんなにかわいらしいホオズキの花。ナス科の仲間です

ホオズキが自然に色づくのは晩夏から秋になります

ホオズキが自然に色づくのは晩夏から秋になります

透かしほおずき。自然の造形の美しさに見入ってしまいます

透かしほおずき。自然の造形の美しさに見入ってしまいます

賑やかなほおずき市もきっと戻ってくることでしょう

賑やかなほおずき市もきっと戻ってくることでしょう

例年ですと、7月9日と翌10日は、東京都最古の寺と言われる金龍山浅草寺の風物詩・鬼灯(ほおずき)市が開催されるのですが、今年は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大の予防措置のために中止となりました。同様に、関東を中心に6月から8月にかけて全国各地で行われているほおずき市のほとんどが中止となっています。

そんな今年、逆にじっくりとホオズキという不思議な植物の生態や歴史と向き合う、良い機会ではないでしょうか。


ホオズキの実を包む袋って何もの?独特のホオズキ属の生態

ホオズキ(Physalis alkekengi var. franchetii)は、ナス科ホオズキ属に属する多年草の草本で、日本列島には史前もしくは上古(7世紀半ば頃より以前)に東南アジアから持ち込まれたものが、逸出帰化して自生化したものと推測されています(この説の真偽については後に詳しく触れます)。

草丈は50~80cmほどで直立し、分枝はあまりしませんが、地下茎で活発に増殖します。花は6~7月頃に咲きます。やや下向きに、杯状に花開くオフホワイトの小さな五弁花で、ほとんど気にとめられることはありませんが、近づいて見ると繊細で愛らしい姿をしています。

目立たない花と対照的に、紙風船のような袋に包まれたホオズキの実は何とも印象的で、いやおうなく目を引きます。この和紙袋のような構造物の正体は花萼で、落花後、宿存萼(しゅくぞんがく)が発達し、実となる子房を包むように五弁の花萼が伸び広がって互いに癒着して形成されたものです。

袋の中には一粒ずつ、朱色の実が隠されています。中身がプチトマトのように液状で虫などの餌食になりやすい液果を保護するために、花萼が取り囲んで密閉するのです。ちなみにホオズキの花萼袋が「六角状」であるとする説明が時折見られますが、これは誤りです。ホオズキはナス科で花の構造は五数性。萼も当然五弁ですから、萼同士が合着した痕跡の脈肋は五筋で、ホオズキの袋は正しくは「五角状」になります。

ホオズキ類はナス科に属するため、世界的分布の中心は中央~南アメリカで、日本にもセンナリホオズキ(千成酸漿)やフウリンホオズキ(風鈴酸漿)など、アメリカ大陸からの近世から近代帰化種がいくつか見られますが、ホオズキ属のヤマホオズキ(山酸漿)、イガホオズキ属のアオホオズキ(青酸漿)やイガホオズキ(毬酸漿)など、ホオズキ属のホオズキと同じく花萼が実を包む種が在来種として自生しています。


ふみづき=火満月に色づくホオズキの語源

ホオズキの長い地下茎は古くから中国で漢方薬「酸漿根(さんしょうこん)」として利用されてきたため、そのまま酸漿という字が当てられて使われます。ですが、鬼灯、鬼燈といった妖しげな当て字のほうがより広く知られています。

奈良~平安期の古典では「ほほづき」「ほうづき」「ぬかづき」といった名称で登場し、方言では「ほづけ」「ふうづき(ふづき)」などがありますが、これらの名称の由来にはいくつかあり、カメムシ(ホホ)が好んでつくためとか、実の色が頬の血色に似ているからとか、火のような実の色から「火火着」とするものなどがありますが、ホオズキ類を好むのはカメムシ以外にも草食性の天道虫(ニジュウヤホシテントウ)などもも存在します。生物の名づけは嗜好食性から名づけられることが普通で、食べられる側が取り付かれる生物の名で呼ばれることは珍しく、カメムシ説はあまり信憑性がありません。

「頬の色」というのも、やや無理があるので、「火火着き」とするのがもっとも有力なように思われます。

現在、「ホオズキ」としてほおずき市や花屋に並ぶ鉢植えもしくは切花のホオズキは、実と萼が鮮やかな朱橙色に染まりますが、もともと江戸時代に芝の愛宕神社ではじまった元祖ほおずき市では、長らく赤く色づかないアオホオズキが売られており、時期も旧暦の6月24日(愛宕権現の本地仏は地蔵菩薩で、地蔵菩薩の功徳日は24日とされているため)だったのですが、ほおずき市が浅草寺でも開催されるようになると、観世音菩薩(観音様)の大功徳日「四万六千日(しまんろくせんにち)」=旧暦7月10日となり、それがあまりに評判を呼んで前日未明から寺周辺に人々が殺到したために、9日にも市が開かれることとなった、とされます。

ちなみに、旧暦時代の7月中旬といえば、ホオズキの実も熟す頃なのですが、新暦の7月10日では、先述したように花の時期にあたり、まだまだ実が熟す時期ではありません。自生するホオズキも、赤い実を見かけるのは10月頃の秋も深まった季節です。ですから近年のほおずき市で見られるきれいに色づいた実は、成長促進剤等で調整されたものだそうです。そうしたものがなかったであろう明治時代頃のほおずき市は、おそらくかわいい花をたくさんつけた鉢が売られていたのでしょう。

かつては、茎や葉を咳止め、利尿、解熱、去痰、疳の虫の抑制などの効用が見られる薬用草として買い求めるものでしたから、持ち帰ってじっくりと育てて、秋頃に色づいた実を楽しんだのでしょう。


照り耀く「アカカガチ」の正体は…

ホオズキが史前帰化、もしくはかなり古い時代に帰化した植物と考えられているのは、日本最初の正史である奈良時代の日本書紀と、その副産物として同時代に編纂された読み物・古事記に記載があるからですが、一方で万葉集(8世紀末~9世紀初頭頃)や古今和歌集(905年頃)には登場しません。

平安時代中期の枕草子(1001年)では「ぬかづき」「ほほづき」の名で、また源氏物語(11世紀初頭ごろ)にも「野分の巻」に「ほほづきなどといふめるやうに、ふくらかにて、髪のかかれるひまひま、美しうおぼゆ」と登場し、どちらもほのぼのとした愛らしいものとして描かれています。

ところが、日本書紀や古事記のホオズキ登場の箇所は大きくニュアンスが食い違います。日本書紀から書き出してみましょう。

期(とき)に至りて果して大蛇(をろち)有り。頭尾各八岐(やまた)有り。眼(まなこ)は赤酸醤(あかかがち)の如し。(神代上 第八段)

已にして降(あまくだ)りまさむとする間(ころ)に、先駆(さきはらひ)の者還りて白(まう)さく、「一(ひとり)の神有りて、天八達之街(あまのやちまた)に居り。其の鼻の長さ七咫(ななあた)、背(そびら)の長さ七尺(ななさか)餘り、當(まさ)に七尋と言ふべし。且(また)口尻(くちわき)明く耀(て)れり。眼は八咫鏡(やたのかがみ)の如くして、赩然(てりかがやけること)赤酸醤(あかかがち)に似れり。」とまうす。(神代下 第九段)

上第八段は怪獣ヤマタノオロチの目、下第九段は異形の巨神・猿田彦の目をそれぞれ「赤酸醤(あかかがち)」(酸漿ではなく酸醤になっているのは、漿油が醤油になったのと同様の変化と考えられます)として恐ろしいものの喩えに使用しています。酸醤=ホオズキなのに、さらにその上に「赤」がついているのは、ホオズキの実のみを指すときに「赤酸醤」と言う、という解釈もされますが、果してそうでしょうか。

ここで現れる「赤酸醤」とは、本州の暖地や四国・九州に分布するホオズキの仲間、メジロホオズキ(目白酸漿 Lycianthes biflora)のことではなかろうか、と筆者は考えます。メジロホオズキの実は普通のホオズキのような朱橙色よりも濃い、血のような真紅で、花萼は実を包まず十裂し、真っ赤なルビーのような実の周囲を放射状に取り囲みます。十本の萼はエクステをつけた睫毛のようにも、光り輝く放射光線のようにも見え、「照り耀く赤い眼」の喩えとしてふさわしいもののように思われます。メジロホオズキは在来種ですので、これらの神話が形成された時代にも確実に日本に存在しました。中国にもメジロホオズキの仲間は分布し、十萼茄、紅絲線といった名で呼ばれます。

つまり、日本書紀・古事記での大蛇や天狗の目のように恐ろしくピカピカした「あかかがち」と、枕草子・源氏物語の「ほうづき・ほほづき・ぬかづき」とは違う植物であるとすれば、両文献でのイメージの激しい落差の説明がつきます。

そもそもホオズキを、化け物の射刺すようなピカピカしたまなざしに喩えるには違和感があります。現代人も昔の人も、薄紙越しにぼうっと点る、幽玄な灯のようにイメージしたはずです。英名もChinese lantern、「中華提灯」と言いますね。 鬼灯の「鬼」という文字が恐ろしげに見えますが、「鬼」とは妖怪・怪物ではなく本来死者のこと。盂蘭盆会で戻ってくる先祖や亡き家族を迎える目印の、温もりのある盆提灯に喩えたから、「鬼灯」と呼んだのです。

日本書紀・古事記の「アカカガチ」と、枕草子・源氏物語の「ホウヅキ」「ヌカヅキ」が別物である、というのは、ホオズキの方言として「オナゴホオズキ(女酸漿)」という名称があることも根拠となります。風船にしたり笛にしたり人形にしたりして遊ぶ優しげなホオヅキ=オナゴホオズキは、中国では漢方名の酸漿とは別の俗称として「紅姑娘」「花姑娘」と名づけられています。この名があるいはオナゴホオズキの由来かもしれませんが、であるならば、ホオズキの渡来はやはり史前や上古ではなく、奈良時代から平安初期頃、中国から持ち込まれたものだということが推察できるのです。

袋をむいて、実を頭に、割いた袋を手足に見立てたほうずき人形にしたり、実の中身の液や種子を取り出して空にして鳴らすほおずき笛などの素朴な昔ながらの遊びや、ドライフラワーインテリアの「透かしほおずき」としても人気の高いホオズキ。ほおずき市の中止を受けて、一年かけて育てた何万鉢ものホオズキが行き場を失ってしまいました。ホオズキのネット販売促進の試みもはじまっているようです。

今年は丹精込めて育てられたホオズキを一鉢、お取り寄せして楽しんでみるのもいいかもしれません。参考・参照

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浅草寺

愛宕神社

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