10月になりました。カレンダーが次第に残り少なくなっていくのが気になり始めます。爽やかな秋の空気を胸いっぱいに吸い込むと、ようやく暑さから解放されたという喜びが感じられますね。過ぎゆく季節を惜しみながら新しい季節の到来を待ち望む楽しさは、豊かに変化する日本の春夏秋冬にある、といえるのではないでしょうか。地球温暖化によるといわれる異常気象に世界が注目するとき、今まで受けてきた四季の恩恵をもっと大切にしていかなくては、とあらためて思います。秋はとくに1年の収穫の時、各地の実りを味わいながら日本の秋の風物をもう一度思いだしてみませんか?

波立つように広がる雲の流れに乗ってみたい!

まぶしかった夏空もいつの間にか穏やかさを取り戻してきたようです。赤や黄色や緑といった原色が似合う澄んだ空を見上げると、ぽこぽこと小さい雲のかたまりがさざ波のように連なって広がっています。「あ、鰯雲だ! 秋が来たなぁ」としみじみと思います。中国から来た考え方にすべてのものを陰と陽、相反する二つに分けるものがありますが、太陽の日ざしが穏やかになりまさに陽から陰への変化を感じられる境目がちょうど今頃。陰の極まる冬至へ、この雄大な天地の動きを静かに感じられるのも、10月の気候の穏やかさのおかげかもしれません。秋の風は色がないといって「色無き風」や「白秋」と表します。木々の葉もひと雨ごとに色を変え秋の色へと変わっていくとき、吹く風に色をつけない日本人の色彩感覚のこまやかさに、あらためて気づかされます。
「いわし雲大いなる瀬をさかのぼる」 飯田蛇笏
「鰯雲故郷の竈火いま燃ゆらん」 金子兜太
鰯雲が空に広がると鰯が大漁ともいわれているそうです。最近では庶民の魚からだいぶ値上がりしていますが、大漁であればショウガとともに鰯の煮付けをたっぷりとつくって、食卓を賑わせるのもいいですね。

栗の美味しさってどう表したらいいのでしょう?

秋の味覚はさまざまあれど、何を一番にあげたいですか? と聞かれたら「栗!」と答えてしまうっていう人、多いでしょうか。栗は茹でたり蒸したりしてそのままいただくのも美味しいですし、栗饅頭、栗羊羹、モンブランにマロンシャンテリーなど和菓子でも洋菓子でも人気の材料です。また「きょうは栗ごはんよ」と言われた時の嬉しさはどなたもお持ちですよね。鳥料理では詰め物として秋は栗が入ることも多いと聞きます。ぽくぽくとした実の充実がどんな料理にもなることから、国や地域がちがってもそれぞれの工夫で味わいを引き出した料理となっているのでしょう。また木の実ですから保存がききます。調理までに栗は鬼皮を剥き、さらに渋皮を剥きと、大変手がかかります。今では瓶詰めがあたりまえになりましたが、それでもお正月の栗きんとん用に甘露煮を作り置きしておく家庭もまだまだたくさんあるようです。
「行く秋や手を広げたる栗のいが」 芭蕉
「道問へば栗拾いかととはれけり」 赤星水竹居
そうそう、そうでした。栗は針がびっしりと立ったいがに包まれています。いががパカッとわれて現れる栗の艶やかなこと。栗の実は木からもぎ取るのではなく落ちた実を拾い集めます。落ち葉を踏みしめながらの栗拾いも、また楽しい秋のお出かけになりそうですね。

大地を彩り、生活を華やかにする菊の花の力!

秋の植物といえば萩(はぎ)、尾花(おばな)、葛(くず)に撫子(なでしこ)、女郎花(おみなえし)、藤袴(ふじばかま)、桔梗(ききょう)と秋の七草が思い出されます。秋は夏の太陽の名残なのでしょうか、春の七草よりもずっと色が鮮やかで豊かであることに気づきます。 秋の陽ざしに輝く花はどれも美しくそして可憐です。月明かりに照らされた芒の輝きもまた秋を引き立てます。他にも曼珠沙華や秋桜と秋の彩りは多彩。その中で別格な秋の花といえば「菊」ではないでしょうか。「菊の御紋」として皇室の紋章になっているのは「十六葉八重表菊」。菊は昔から日本人に大切にされてきたことがわかります。
中国では菊には不老長寿の効があるとされています。そこから菊からしたたり落ちた水を飲んだ者は長生きをするという「菊の水」の伝説もあります。もう過ぎてしまいましたが9月9日は「重陽の節句」。陽の数つまり奇数の一番大きい9が重なる日のお祝です。この日にお酒に菊の花びらを浮かせて飲み、「菊の水」の伝説になぞらえ長寿と繁栄を祈ったということです。
日本に渡ってきたのは奈良時代といわれていますが、それ以来多くの品種が改良によって生まれました。鑑賞用だけでなくこの時期八百屋さんにも食用の菊が出まわり、お浸しにしていただくこともありますね。夏にお世話になった蚊取り線香も除虫菊という菊の一種が原料となっています。
菊を使ってこしらえ物を作り、和歌を添えて互いに競う「菊合わせ」、菊の花を摘み乾かしたものを枕にして頭痛や目の病に効能があるとした「菊枕」など、菊にまつわるものは大変多くあったようです。現在は温室栽培によって1年を通して仏さまへの供え花として私たちも使っていますが、大輪の菊の華やぎが見られるのは今の季節において他にはないでしょう。チャンスがあれば口に目に、と今年の菊を是非楽しんでいただきたいと思います。