夏至と関わりの深いホタル。その名をいただく美しい山野草を探してみませんか? 〈tenki.jp〉|AERA dot. (アエラドット)

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夏至と関わりの深いホタル。その名をいただく美しい山野草を探してみませんか?

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6月22日は夏至となり、一年のうちでも冬至と並んで古代からもっとも大切な日とされてきました。太陽は夏至の瞬間をもって南回帰線へと反転して、次第に北半球から遠ざかっていくことになります。この時期、世界各地でホタルの仲間が羽化して光を放ち始め、ヨーロッパではホタルは夏至の聖人である洗礼者ヨハネの虫=St. John's Bugとも呼び習わしますが、そのほとんどは地上性で、森や原野などで見られるもの。幼虫期を水中で過ごす水生ホタルが主要種である日本列島は、世界でも例のない特異な地域なのです。雨や水と深く関わる日本の夏至の、そしてその象徴ホタル。その名をいただいた植物がいくつもあります。身近で美しい「ホタルグサ」の数々をご紹介したいと思います。

ホントは「マルハナバチブクロ」?梅雨の名花・ホタルブクロ

入梅ごろから咲き始め、梅雨が明けるころに花期を終えるため、「雨降り花」とも呼ばれたホタルブクロ(Campanula punctata Lam)。「ホタル」と名のつく植物で、多くの人がまず思い浮かべるのはこの花ではないでしょうか。キキョウ科に属し、釣鐘草の別名もあります。夏の湿潤な藪やあぜ道などに涼やかに咲く紫色のツリガネニンジンとも近縁で、ホタルブクロ属(カンパニュラ)とツリガネニンジン属は、釣鐘(ベル)型の筒花が大きな特徴でありチャームポイントです。英語圏ではBell flowerと呼ばれます。
花期は5月末から7月半ばごろ。人里近くの、雑草や潅木が手入れされた明るい藪の縁などに自生する里山植物系の多年草で、40~80センチほどのまっすぐの茎の各節から、うつむくような釣鐘型の5センチほどの花を咲かせます。花びらの外側は赤紫からピンク、薄桃色と変異があり、時にほとんど真っ白な個体もあります。内側にはゴマノハグサ科の花のような斑点模様があり、花の筒の幅は、花粉を媒介するマルハナバチがちょうどもぐりこむのにびったりサイズに設計されています。
かつては子供たちがこの花の中にホタルをすべりこませて、花弁を透かしてほんのり光るのをホタルちょうちんに見立てて遊んだために「ホタルブクロ」と言われていますが、実際にはこの花はマルハナバチのための専用袋、というわけです。伊豆諸島には固有種のシマホタルブクロという種が分布します。花は真っ白でほっそりとしていて、清楚な印象を受けますが、伊豆諸島のマルハナバチは本土よりも小型のため、その体のサイズにあわせて筒幅を細く、花を小さくしたのだと考えられます。

風情ある名と姿ながら稲農家を困らせる水田の強壮雑草・ホタルイ

梅雨時から夏にかけては稲が大きく育つ生育期ですが、水田の水は水生雑草にとっても快適な環境。それらの雑草の中でもオモダカ、カヤツリグサとともに強力な害草として知られているのがホタルイ(蛍藺 choenoplectiella hotarui)です。畳に使われる藺草(イグサ)に似ていますがカヤツリグサ科で、湿田や休耕田、小川や水路に旺盛に繁殖します。早春に発芽してすくすくと育ち、夏、ヘイケボタルが舞う頃の水辺で、葉が退化した20~80センチほどの茎の途中からいきなり出ているように紡錘形の小さな花の固まり(小穂)をつけます。「ホタルイ」という名は、紡錘形の小穂がちょうど虫(ホタル)が茎に留まっているように見えるからそうつけられたとも、あるいはホタルかごの中に入れてホタルをつかまらせておくためにいれることから来ているとも、ホタルが生息する環境に生えていることが多いからとも言われますが、由来ははっきりわかっていません。

スリラーの登場人物ではありません!ホタルサイコ

ホタルサイコ(蛍柴胡 Bupleurum longiradiatum var. elatius)は山野に生えるセリ科ミシマサイコ属(またはホタルサイコ属)の夏花で、平地よりは山地で多く見られます。サイコというと最近のドラマや映画、アニメなどで盛んに登場する「サイコパス(人格異常者)」を連想させ、さらにそれに「ホタル」とつくと妖しさが増幅し、何だかちょっとおっかないイメージがあるかもしれません。もちろんこの「サイコ」はサイコバスの意味ではなく、生薬「柴胡(さいこ)」のことです。ミシマサイコ属の肥厚化する根を乾燥したもので、トリテルペン系サポニン、サイコサポニン(saikosaponin)、ステロイドを含み、肝機能障害の改善、伝染性肝炎の消炎、胃腸炎の消炎、解熱の効果があります。江戸時代以来、静岡県三島地方が柴胡の大集荷地となり「三島柴胡」と呼ばれるようになりました。この属名種であるミシマサイコと同様、ホタルサイコの根も生薬柴胡として利用されます。
ミシマサイコ属はセリ科では珍しく黄色い花をつけます。その中でもホタルサイコは草丈が高く1.2メートルほどになり、端正な複散形花序ものびやかに広がり、火花がいくつもスパークする瞬間の線香花火のように美しいものです。ホタルサイコという名は、この火花のような小花一つ一つをホタルの光にたとえて名づけられたものと思われます。ミシマサイコほどではありませんが、近年各地で自生が減っていて、絶滅危惧種に指定されている都道府県もあります。

すぐそばに輝く地上の青い星。ホタルカズラ

染料として根が使われることで有名なムラサキ科の中でももっとも大きな花をつけるホタルカズラ(Lithospermum zollingeri A.DC)。花期は4月末から5月中旬ごろで、ホタルが出現する時期よりも早いのですが、それでも「ホタル」と名がつけられるのは野草の中でも随一と言っても過言ではない鮮やかな青い花弁と、その中心の白い五芒星型の中肋の美しさを、ホタルの光にたとえずにはいられないからでしょう。青い花といえば、オオイヌノフグリやツユクサが有名ですが、それらの花は寒色系の紺に近い色。ホタルカズラの青はそれらの青い花よりも鮮やかな、まさにスカイブルー。近年人気のネモフィラよりも深く濃く、目を奪われずにはいられません。
花の美しさから園芸品種化しようという試みもあったようなのですが、栽培が極めて難しく、園芸品種は作出されていません。人の手に飼いならされることを拒む孤高の美しい野の花が、深山幽谷でも霧のかなたの高山でもなく、人の生活圏の片隅でひっそりとたくましく自生するのは不思議でもあり、奇跡のようでもあります。ヨーロッパ原産の近縁種がミヤマホタルカズラ、またはリソドラという名で販売されていて、青の色味も似ていてなかなか美しい花なのですが、日本原産のホタルカズラの素朴なたたずまいと、山野で出会ったときのハッとする感動には及ばないように思います。「カズラ」の名は、花が終わった後に新しい枝を萌出し、地を匍匐して根を広げる性質から。カズラと言ってもツタ植物のように木などにからみついて高い場所を目指したりせず、あくまで低い場所で地道に分布域を広げる性質も、地上近くを飛び交うホタルにどこか似ています。
今年の花期は残念ながら終わっていますが、来シーズン是非探してみてください。都市部でも、緑の多い大き目の公園の日当たりのよい南に面した林の斜面などに、思いがけず群生していることもよくあります。

参照
薬草カラー図鑑 (講談社)
日本の野草 (山と渓谷社)
植物の世界 (朝日新聞社)


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