寒中の邪気を祓う風習さまざま~二十四節気「小寒」 〈tenki.jp〉|AERA dot. (アエラドット)

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寒中の邪気を祓う風習さまざま~二十四節気「小寒」

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春の山菜、ノビル

春の山菜、ノビル

1月6日より二十四節気「小寒」。次節気の「大寒」とあわせて、一年のうちでもっとも寒さが厳しくなる寒中(または「寒のうち」)となります。こよみ便覧では「冬至より一陽起るが故に陰気に逆らう故益々冷るなり」とあります。目覚めた陽気が対極の陰気を刺激し、抗うように陰気が寒さをつのらせる、ということでしょうか。寒中には冬の陰気が最も強まる時期として、生命力を喚起し邪気を祓うさまざまな儀礼・習慣が伝わっています。

日本オリジナルの野菜、寒ゼリの美味しい季節です

小寒の和暦七十二候初候は「芹乃栄(せりすなわちさかう)」。田や沢などに見られるセリの生育が盛んになる時期であることを意味します。セリ(Oenanthe javanica)はセリ科セリ属の多年草。セリ科は比較的大きな科で、ニンジンやウド、さらにはパセリ、セロリなどのおなじみの野菜もみんなセリ科です。英語ではCarrot Familyと言い、夏ごろに咲くセリの散形花序を見れば、ニンジンの花ともよく似ていて、仲間であることがわかります。
アジアでは古くから野菜として育てられ、ことに中国では夏(か)・殷(いん)・周の三王朝時代(BC2200年ごろ~BC 771年)から栽培されてきたほど長い歴史をもちますが、その割には品種改良がされずにほとんど原種のままで栽培されてきた不思議な植物です。
日本列島にももとから広く自生していた在来種で、フキ、ウド、ミツバなどとともに約15種ほどの数少ない日本原産の野菜です。渋川春海は貞享暦の七十二候を編む際、そこに登場する生物は可能な限り日本在来のものを取り入れましたが、セリもそうした意図から入れられたものでしょう。中国宣明暦では小寒初候は「雁北郷」で、長安付近で越冬した小型のガン類が北の繁殖地(故郷)へと旅立つころ、となっています。日本に来るガンカモ類でこの時期に北に帰る種はありませんから、春海はこれを廃して「芹乃栄」としました。加えてセリは、鳥肉料理、とりわけ鴨や雁とは相性がよく欠かせないハーブとして利用されていましたから、雁を芹に変更する、というのも春海らしい抜け目ない発想といえます。
さらに、この寒の入り頃に沢に伸び出てきたセリは「寒芹」と呼ばれ、ことのほか香りが高く歯切れが良いことで珍重されます。漢方生薬としてもさまざまな効能で知られ、豊富な鉄分、ビタミン、セリ科独特の精油成分が、肝機能の回復、貧血、皮膚疾患、風邪、ガン予防などに効果があるといわれます。
1月7日の人日の節句の風習として伝わる「七草粥」にもセリは筆頭で登場して欠かせないものとなっています。

「人日の節句」といえばおなじみ七草粥。その七草に異論あり!

芹なづな 御形はこべら仏の座 すずなすずしろ これぞ七草
という短歌でよく知られる「春の七草」。七草粥の具になります。シーズンにはスーパーにも七草セットが販売されたりもするため、「秋の七草」よりも知名度は高いかもしれませんね。でも、「秋の七草」が奈良時代の歌人・山上憶良の作であるとわかっているのに対して、春の七草の歌は誰によるものかがはっきりとわかっていません。一説では南北朝~室町時代の左大臣・四辻善成(よつつじのよしなり)であるとも言われますが、これは著書「河海抄(かかいしょう)」の中で「薺(なづな)、繁縷(はこへら)、芹(せり)、御形(ごぎょう)、菁(すずな)、酒々代(すずしろ)、仏座(ほとけのざ)」の七種(ななくさ)として言及しているためです。
七草が何をさすのかは、現代ではこのように言われています。
「芹」はセリのこと。「なづな(薺)」は今で言うぺんぺん草。「御形」はハハコグサ(母子草)。「はこべら(繁縷 繁縷)」はハコベ。「仏の座」はコオニタビラコ。「すずな(菘)」はカブの葉。「すずしろ(蘿蔔・清白)」はダイコン。
でも皆さん、この七種が七草というのは、ちょっと違和感がありませんか?筆者は子供の頃「春の七草」を覚えるのに苦労しました。五種類の山菜と、二種類の野菜が混在していて、イメージの統一ができなかったからです。実際、七草が何の草を指すのかについて、地味ながら長く論争が行われてきました。
「芹」「なづな」「御形」「はこべら」の四種についてはあまり議論はありません。しかし「仏の座」「すずな」「すずしろ」については、異論が続出しているのです。
「ホトケノザ」というと、今では早春から仲春にかけて道端や土手などにオオイヌノフグリとセットで群生する春の野原のなかなかかわいらしいシソ科の花ですが、山菜としてはごわごわとして極めて不味く、食べたがる人はありません。貝原益軒はこのホトケノザが七草の「仏の座」であるとしていますが、明治時代の植物学者牧野富太郎は、「食えたものではない」として却下し、冬のロゼットが仏の台座のようであるとして「ホトケノザ」の異名があるキク科のコオニタビラコがそれである、と指摘しました。が、これもあまり美味しい山菜ではないため、薄水色の極小の花をつけるキュウリグサのことではないか、とか、別名「地獄の釜のふた」と呼ばれるキランソウのことではないかとか、さまざまな説があがっていて、実は結論が出ていません。一般的には、牧野氏の権威に従う形でコオニタビラコにしているようです。
「すずな」と「すずしろ」の野菜組はもっと問題です。そもそも若菜摘みとして若萌えのかわいらしい自生の野の草を摘んでいたのに、突然栽培野菜、しかも大型根菜のカブとダイコンというデカブツがしゃしゃり出てくるのです。
「すずな」については実はノビル(野蒜)のことではないか、という説を提唱したのは辺見金三郎です。「すずな」は「鈴菜」で、ノビルの根茎はティアドロップ型で鈴のようにも見えます。何より早春の山菜の代表格であるほど美味しく滋養のある植物です。
「すずしろ」については「うはぎ」つまりヨメナのことである、と辺見は主張しています。秋の野菊として思い浮かぶ人も多いでしょうが、その若菜は万葉の時代から親しまれた春の山菜です。ヨメナの根は、元株からはいく筋もの白い地下茎が地中に這い、白い筋が広がったよう。そう「すずしろ」とはこのヨメナの白い地下茎「筋白」のことだと辺見は言います。ちょっとこじつけくさくはありますが、ヨメナの若菜と白米の相性は抜群で、「ヨメナご飯」は一度食べたら病み付きになる美味しさで、これが何より説得力を増します。
もちろん、ダイコンやカブも体にいいものですが、カブのかわりにノビル、ダイコンの代わりにヨメナを摘んできて、山菜七種を取り揃えた本格「七草粥」を試してみるのも楽しそうです。

七草粥の本当の製法とは⁉

七草粥は、実はきわめて手のかかる呪術的食べ物である、という伝説はご存知でしょうか。室町時代の御伽草子「七草草紙」によればその製法とは、春の初めに七種の草を集め、1月6日の酉の刻(午後六時)から、柳の木のまな板の上にまずセリを玉椿の枝で打ちます。二時間打ち続けたら午後八時よりなづなを同じように打ち、続けて二時間ごとに一草ずつ、合計14時間かけて七草を打ち、その後辰の刻(午前八時)に東の方角の清水を汲み、それで煮て食べる、というのです。これらの作業を、同じ行為をして命を八千年生きながらえている須弥山の白鵞鳥に先駆けて行えば長命を得られるのだとか。
まさかそんな手のかかることはできはしませんが、繊維の多い野草を叩いてから粥に入れるのは理にかなっていますし、その作業の際に歌う「七草囃子」も各地に伝わっています。歌詞にはいろいろなバージョンがあるものの、
七草なずな 唐土の鳥が日本の国に渡らぬ先に ストトントン
などと調子をつけて歌いながら、七草の具を叩いてゆきます。「唐土の鳥」というのは須彌山の長命の白鵞鳥のことで、「渡らぬ先に」とは東の方の岩井の若水を飲むために渡ってくるより先に、という意味だとわかります。水の霊力は先んじたものに与えられるということのようですね。こうした言い伝えが、広く農村などの津々浦々に伝播し、定着普及していたことがわかります。

冬の土用の風習「寒中丑紅」、そして「ひのつく赤い物」

「土用」とは四季の季節の変わり目、「四立(立春・立夏・立秋・立冬」のそれぞれ直前18日間の養生期間を言います。派手な行いや激しい労働をつつしみ、体を休める時期で、かつてはこの期間にちょっと美味しいものを食べたりもしました。ウナギなどは冬が旬ですから、本来寒蜆とともに、冬の土用に食べるものとされていました。ウナギは夏に移行しましたが、冬の土用の風習として流行したのが「「寒中丑紅」でした。寒の丑の日に売り出された紅は、「寒中紅」あるいは「丑紅」といわれて珍重されました。
寒中に売られる口紅は質がよく、肌荒れや口内の毒や菌を消す作用もあると信じられ、女性だけではなく子供にも薬としてつけていたといわれます。これは、もともと赤という色が魔よけの意味があることに加えて、冬=玄(黒)の作用が最大になる寒中に、対極にある夏=朱を身につけることで陽気を強めて陰気の害から身を守るという信仰があったためでしょう。
同じように赤いものを食べることは、陽気を取り入れることになるので体によいとされました。ニンジンや唐辛子やイチゴ、かんきつ類、寒い時期のほうれん草の赤い根などは、言うまでもなく冬に食べると滋養になりますよね。
加えて夏に「う(牛=丑)のつく黒いものを食べるとよい」を応用するなら、冬には「ひ(羊=未)のつく赤いもの」が縁起が良いことになります。最近流行のビーツなどはぴったりではないでしょうか。またピーマンも熟すと赤みが出るのであてはまりますね。
「せり」という名は、分岐した茎が競い合う=「競り合う」ように伸びてくるさまからつけられたという説がありますが、おりしも大学受験シーズン。サッカーやラグビーの高校選手権大会や駅伝など、なぜか競り合うスポーツのイベントが集中するのは偶然でしょうか。「競り勝つ」ことだけが人生ではありませんが、それでもわが子や仲間に「勝て」とエールを送りたくなるのも人情。縁起と健康を祈念して本格七草粥で元気をチャージしてみてはいかがでしょうか。

七草の歌(七草なずな/七草ばやし)


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