今年の夏は全国的に危険な暑さが続き、やっかいな蚊も少々バテ気味(蚊は気温が30度を超えると活動が鈍くなる)……。そんな理由のせいか、今夏まだ蚊に刺されて(食われて)いない方もいるようです。
そして、日本の夏の風物詩といえば「蚊取り線香」を連想される方や、あの独特の除虫菊の香りをかぐと、どこかノスタルジックな夏の情緒を感じる人も多いのではないでしょうか。
そこで、突然ですがクエスチョンです!
蚊取り線香の渦巻きは、表の面を中心から見ると右巻き? 左巻き?
答えを知る前に、蚊取り線香の進化の歴史とともに見ていきましょう。

蚊取り線香にはやっぱりコレ! 昔懐かしい「蚊やり豚」
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日本人が発明した世界初の蚊取り線香は「棒状」だった

現在、日本をはじめ世界各国にも普及している渦巻き型の蚊取り線香。その生みの親となったのが、「金鳥」ブランドで知られる大日本除虫菊株式会社の創業者・上山英一郎氏です。
明治時代の中期、除虫菊に虫よけの効果があると知った上山氏は、平安時代からの伝統的な風習「蚊やり火」を参考にして、粉状の除虫菊におがくずを混ぜて燃やす方法を考案。しかし、夏場に季節はずれの火鉢が必要だったため、普及には至りませんでした。
そこで上山氏は、乾燥させた除虫菊の粉末を細い線香に練り込み、1890年に世界初の棒状蚊取り線香「金鳥香」を生み出します。ただ、長さが約20cmと短いため、燃焼時間は約40分が限界で、蚊が来襲する深夜には燃え尽きてしまうことが難点でした。とはいっても、線香の長さを伸ばすと燃焼中に倒れやすくなり、火事のもとにもなりかねません。

胚珠に殺虫成分を含むキク科の多年草・除虫菊
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蚊取り線香を渦巻きにするアイデアは、内助の功から生まれた!

どうすれば、安全に燃焼時間を長くできるのか……。
試行錯誤を重ねつつ悩んでいた上山氏に、「渦巻き」というアイデアを提案したのが、上山氏の妻・ゆき氏でした。この形状にすると線香を伸ばして燃焼時間が長くできるうえ、倒れる心配もないので安全に使えます。まさに「コロンブスの卵」的な妙案ですよね。こうして1895年、上山夫妻の絶妙なチームワークによって、渦巻き型の蚊取り線香が誕生したのです。
さらに上山氏は、量産化を可能にする製造方法も編み出しました。試作段階では渦巻き状の木型を使って1本ずつ作る方法を考えましたが、時間と手間がかかりすぎて大量生産はできません。そこで新たに考案したのが、長さ60cmの線香を2本同時に手で巻く「ダブルコイル方式」です。これなら生産量が倍増するだけでなく、乾燥すると2本の線香の間にすき間ができて簡単に分離でき、搬送時の折れや輸送コストも抑えられます。
そして1902年、ついにダブルコイルの渦巻き型蚊取り線香「金鳥の渦巻き」が日本全国で発売。以来、このダブルコイル方式は、蚊取り線香のスタンダードな製造技術として世界中に広まりました。

「棒状」の難点を克服するには……?
「棒状」の難点を克服するには……?

「蚊取り線香はどっち巻き?」の答えは……

昭和時代に入ると、他メーカーでも渦巻き型の蚊取り線香を生産するようになり、成形方式も手巻きから型抜き機械による成形に移っていきました。そうした中、大日本除虫菊では長きにわたって手巻きの成形方式を採用し、ようやく1955年ごろから他メーカーに続いて機械成形へ移行しました。そこで、渦巻きの一大変化が起きたのです。
人間は右利きが多いので、手巻きの時代の渦は自然に右巻きとなりましたが、他メーカーでは機械化されてからも昔に習い、右巻きの蚊取り線香を生産しています。しかし、機械化で他メーカーに後れをとった同社は、「後発で同じ右巻きでは面白くない」と、機械成形に移行したタイミングで左巻きに変えたそうです。
ということで冒頭のクエスチョンの答えは、
「金鳥ブランド」は「左巻き」
「他のブランド」は「右巻き」 でした。
意外と知らない蚊取り線香の渦巻きにまつわるお話……いかがでしたか?
いまや蚊取りアイテムは電子式やリキッドタイプなどが主流となりましたが、火を灯す昔ながらの蚊取り線香は、日本の夏の定番としてこれからもずっと残ってほしいですよね。
※参考資料/大日本除虫菊HP