古典落語「千両みかん」── 食べ物はやはり、旬がいちばんのようで…… 〈tenki.jp〉|AERA dot. (アエラドット)

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古典落語「千両みかん」── 食べ物はやはり、旬がいちばんのようで……

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本格的な夏の到来とともに、スーパーの店頭にはスイカ、枝豆、トウモロコシ……といった夏を代表する食べ物が並びます。また、街を歩くと「冷やし中華始めました」と書かれたのれんやポスターもよくみかけるように。夏はついつい、つるんとのどごしのよい麺類を食べがちですが、お疲れ気味の人は滋養あるうなぎ、ニンニク、お肉などを食べて元気に夏を乗りきりたいものですね。
今回はそんな旬の食材を題材にした落語「千両みかん」をご紹介しましょう。冷房も冷蔵庫もない江戸時代、ある店の番頭は、冬の果物・みかんを買いに行く羽目に陥るのですが……。

若旦那の病の原因は、夏バテ? 恋わずらい?

夏のまっ盛り、大家(たいけ)の若旦那が原因不明の病で寝込んでしまいました。
医者は「何か思っていることがあり、それが胸につかえている。それを叶えてやれば病は治る」という診断を下したのですが、時間を追うごとに衰弱していく大事な跡取り息子を見て、気が気ではない大家の旦那。
早速、旦那は医者の見立てにならい、跡取り息子の心の内にどんな心配事があるのか、好きなお嬢さんでもいるのか……と、普段からなにかと気が利く店の番頭に、息子の心の内を聞き出すように頼みます。
しかし、若旦那は「どうせ叶わないこと」となかなか話そうとしません。ひょっとしたら恋わずらいってやつか……と心配する番頭は、それでもしつこく若旦那に話しかけ、胸の内を明かそうと努力します。
すると、やっとのことで口を割った若旦那。その口から出た言葉は、なんと「みかんが食べたい」。
なんだ! 食べ物くらいだったら簡単なことと、番頭はその場でたやすく請けおってしまうのですが……。

真夏に、たったひとつ、みかんがあった!

ところが季節は、夏真っ盛り。
ましてや、今と違って冷蔵庫などない時代ですから、冬が旬のみかんなど、どこに行ってもあるはずもありません。そのことに気がついた番頭の顔は真っ青。旦那の頼みに快く応じてしまった手前、さて、どうしたらよいものかと悩みあぐねます。
もし、みかんが見つからずに、若旦那が亡くなってしまったら……。
「おまえは主人殺しだ」と旦那は激高することでしょう。さらに長年勤めた店も首になってしまうかもしれません。そのことに気づいた番頭は、夏の街にみかんを探しに出かけます。
直射日光が照りつける中(冷房もない江戸時代)、フラフラ、疲労困憊状態になるまでみかんを探したものの、どこにもみかんなどありません。ほうほう(這う這う)の体でたどり着いたのは神田の大きな果物問屋。
その果物問屋。実は腐るのを承知で、上物(上等の品物)のみかんを蔵の中に何箱も貯蔵していたのです。昔から青物(野菜や果物)などを扱う大手の問屋は、穴ぐらや土蔵内に何重にも梱包をして、旬のものではない食べ物を「囲う」習慣があったのです。
若旦那の窮状を知った果物問屋は、土蔵内に囲っていた箱を開けることに……。
案の定、ほとんどのみかんは腐ってしまっていたのですが、その中にたったひとつ、傷んでいないみかんが!

「息子の命が千両で助かるなら安いこと」とふたつ返事の旦那

箱にへばりつくように上体を近づけ、奇跡のような出会いに胸をなで下ろした若旦那。善は急げ!と買って帰ろうと思った番頭は、果物問屋の主人に「このみかんひとつの値段はいくら?」と問いかけます。
すると、果物問屋の主人が言った価格は「なんと千両」!
困った番頭は、一度店に戻り、旦那に一部始終を報告します。すると旦那は「息子の命が千両で助かるなら安いこと」と、ふたつ返事でみかんひとつに千両を払うことを了承したのです。
早速、若旦那にみかんを届けた番頭。若旦那はひとつのみかんを手に取ると皮を剥き、10房のうちおいしそうに7房を食べました。果たして、これで病は治るのでしょうか?
「ご苦労だった。あとの3房はおまえのご両親とお前で分けておくれ」。そう言うと若旦那は、豪勢にも(?)みかん3房を番頭に分けてくれたのです。

ひとつ千両のみかんなら、残った3房はいくら?

みかん3房を手にのせ、番頭は考えました。
「旦那は若旦那のために、たったひとつのみかんに千両も出した。ひとつ千両のみかんなら、今この手にある3房は300両だ。もしかしたら、皮だけでも5両くらいはするかもしれない……」
当時、大家の商家の番頭は長年勤めると、主人が自分の店を出してくれることになっていました。これを分家(ぶんけ)といいます。「私ももうすぐ旦那の店から分家させてもらう。しかし、その時に100両くれるかどうか。えいままよ!」
気が利くけれど、その分早とちりのきらいもある番頭は、なんと、みかん3房を持って夜逃げしてしまったのです!。
── 古典落語の演目「千両みかん」は、噺の細部にいくつかのバリエーションがありますので、その違いを楽しむのもまた楽しいかもしれません。とはいえ結論は、食べ物は体にとってもお財布にとっても、やはり旬がいちばんのようですね。


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