初夏のひかりを湖の上にかな―俳句歳時記を楽しむ

2018/05/10 11:00

5月10日は、日本気象協会の創立記念日。1950(昭和25)年5月10日に創立された日本気象協会では、2013(平成25)年の春、現代の季節感に合う「季節のことば36選」を、「二十四節気ひとこと解説」とともに発表しています。古くから季節感を大事にして来た日本人の心を継承すべく、わたしたちも俳句などを通じて、気軽に季節のことばと親しんでいきたいものです。 さて立夏を過ぎ、俳句の世界では初夏の季語が活躍します。夏の初めの俳句を、いくつか紐解いてみましょう。

薄暑来ぬ人美しく装へば 夏に入ると、春よりもいっそう力強い陽光がきらめき、煌めく若葉から発散される生命力には、心が浮き立ちます。自然の光景のみならず、街の空気や人々の装いも、夏を迎えて生き生きと躍動しています。「初夏(しょか・はつなつ)」「夏浅し」「夏めく」「薄暑(はくしょ)」などの季語を用いた句には、そんな様子が表現されています。 ・初夏のひかりを湖(うみ)の上にかな 〈山田照子〉 ・寺清浄僧等清浄夏めきぬ 〈高野素十〉 ・薄暑来ぬ人美しく装へば 〈星野立子 ・本の神田軒毎覗く夕薄暑 〈松本澄江〉 ・浴衣裁つこゝろ楽しき薄暑かな 〈高橋淡路女〉 ・一雨が来て炎帝に老い兆す 〈安居正浩〉 「炎帝」とは、夏をつかさどる神や太陽の意味で、「夏」の関連季語です。しばらくは炎帝も忙しくなりますが、盛夏を前に、祭りの準備にも心浮き立つ頃となります。 袋絵の富士みどりなる新茶かな 八十八夜の頃摘まれたお茶は、立夏をすぎた頃、本格的に新茶として出回ります。柔らかく香り高い新茶が味わえるのは、この時期の季節限定のお楽しみ。宇治や狭山、西尾、嬉野など、地域ごとの新茶を飲み比べるのも一興です。 ・新茶の香真昼の眠気転じたり 〈一茶〉 ・袋絵の富士みどりなる新茶かな 〈田中一義〉 ・新茶飲み雨を激しと見たりけり 〈今村俊三〉 ・新茶汲みたやすく母を喜ばす 〈殿村菟絲子〉 ・もの忘れ母になかりし新茶かな 〈星野麥丘人〉
月の露光りつ消えつ薔薇の上 各地のバラ園では、ハイシーズンを迎えています。晩春から咲き始めて初秋まで続く薔薇ですが、初夏を盛期として、俳句の世界でも香り豊かな句が並びます。 ・薔薇の香か今ゆき過ぎし人の香か 〈星野立子〉 ・月の露光りつ消えつ薔薇の上 〈鈴木花蓑〉 ・薔薇白し暮色といふに染りつつ 〈後藤夜半〉 ・ばらの香のをりをり強し雨の中 〈楠目橙黄子〉 ・咲き満ちて雨夜も薔薇のひかりあり 〈水原秋櫻子〉 このところ夏日かと思うと冷たい雨に降られたりと、寒暖の激しい時もありますが、羽織るもので調整するなど、体調を崩さないようにしたいですね。 【句の引用と参考文献】 『新日本大歳時記 カラー版 夏』(講談社) 『カラー図説 日本大歳時記 夏』(講談社) 『第三版 俳句歳時記〈夏の部〉』(角川書店)

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