第十七候「霜止出苗」(しもやみてなえいずる)をむかえました。そろそろ霜が降りるような寒さも終わりますから、田植えにそなえて苗を育てる時期、ということです。秋に新米が出まわると誰もが収穫を喜び今年の米を味わいたいと思います。そのために種籾を播いて苗を育てるのが今なのです。秋の収穫の第一歩。今月の11日には天皇陛下も皇居で種籾を播かれたと新聞記事にありました。お米作りに関わっていない人たちに日本はお米の国ですよ、と思い出させてくれる大切な時ではないでしょうか。

「忘れ霜」っていいます。こんなにあたたかくなったのに霜!?

4月も終わりになり温かい日があたりまえになってきた頃に、霜が降りることがあります。びっくりしますよね、すっかり霜のことなど忘れた頃に降りるのですから。人間より驚くのは農作物の方かもしれません。時には大きな被害になりますので侮れません。「八十八夜の忘れ霜」という戒めのことばもあります。
立春から数えて88日目の日が八十八夜。5月の1日か2日頃にあたります。この頃が霜の降りる最後となるので農家では「別れ霜」「霜の果て」といって、これ以後は霜の心配もなくなり種播きを始める季節となります。春から夏への大切な節目です。「八十八」を組み合わせると「米」という字になります。天の運行と米づくりにはふしぎな縁があると思いませんか。

「玉苗」っていいます。手塩にかけて育てた苗のことです

「田植え」は初夏の日本の風景としておなじみです。この時植える苗を育てる田が苗代です。水に浸した種籾を密に植えて、20㎝ほどまで成長させてから本田に移し植えます。直接本田に種を播いて育てる直播きもありますが、日本では奈良時代ころから苗代を使って稲作が行われていたということです。その頃編纂された播磨国の風土記に「田に苗代を作る」という記事が見えるからです。苗の善し悪しが本田での稲の生育に大きく影響を与えるため、苗代で育てる稲には肥料の与え方や温度管理など充分な注意が必要ということです。このように大切に育てた苗だからこそ、愛情を込めて「玉苗」と呼んでいます。
「五月雨の そそぐ山田に 早乙女が 裳裾ぬらして 玉苗植うる」
田植えのようすが目に浮かぶ短歌です。ところで「夏は来ぬ」という初夏になるとよく歌われるメロディにのせて口ずさんでみてください。最後に「夏は来ぬ」をつけると2番の歌詞になります。作詞は歌人佐々木信綱氏。詩情あふれる美しい日本語が風景を浮かび上がらせ、豊かな稔りを予感させる季節感いっぱいの歌ですね。

「穀雨」っていいます。大切な作物の種をうるおします

「霜止出苗」は二十四節気「穀雨」の第二候。やはり雨がなければ種や芽は育ちません。この時期の雨は穀物の種や芽をうるおすことから、春に降る雨でも「春雨」とは別の名前が付けられたのでしょう。東京の4月の平均雨量は124.5㎜(気象庁HP)と特別に多いわけではありませんが、暖かい雨で田畑の作物が育ち山野に若芽が伸び、緑が生き生きとしてくるのを私たちも実感します。
「まっすぐに草立ち上がる穀雨かな」 岬 雪夫
「土塊のしやべりだしたる穀雨かな」 小島 とよ子
春から夏に向かう穏やかなエネルギーが伝わってきます。始まりの4月に決意あらたにされた方も多いことでしょう。始めはなかなか成果が上がらなくても、芽吹きには穏やかな雨がちょうどいいように、諦めずにコツコツ続ければきっと芽は出てくる。そう信じて秋の稔りに向ってまずは一歩を踏み出していきましょう。