4月15日からは晩春「清明」の末候・第十五候「虹始見」(にじはじめてあらわる)です。春に見る虹は淡く感じられます。それは春の雨の雨粒が小さいからでしょうか、それとも量が少ないからでしょうか。大気中に浮かぶ水滴に太陽の光が屈折・反射してできるのが虹。みつけたら誰だって嬉しくなってしまいます。だからでしょう虹は音楽、絵画、文学とちょっと探せば身近にたくさん見つけられます。けれど虹って不思議でミステリアス。だから今日は虹について少し深めてみませんか?

アリストテレスは言いました「虹は水滴から反射された光だ」

古代ギリシア・ローマの時代から虹について研究してきた人は多くありました。アリストテレスもそのひとり。プラトンの弟子でありアレキサンダー大王の家庭教師であったことも知られている紀元前4世紀に生きたギリシャの哲学者です。著作『気象論』の中で「光の屈折と反射」や「虹の曲線」といった科学的な説明をこころみています。「虹は水滴から反射された光によって生じる」と考えましたがその色については、太陽の光(白)と夜の闇(黒)の間に現れると解釈しています。これはアリストテレスの「明暗混合説」と呼ばれ、他に決定的な根拠が見つからなかったため17世紀まで支持されました。
他にもアリストテレスは虹について詳しく説明しています。虹は同時にふたつ以上立つことはないこと。いずれの虹も色は赤・緑・青の3色であり内側の虹が濃く外側の虹は薄いこと、内側の虹は赤が最も外側で緑、青となり、外側の虹では内側から赤、緑、青となること。既に紀元前にここまで客観的な観察がされていたことに驚かされませんか?

「我思う、ゆえに我あり」デカルトも虹を熱心に研究していました

17世紀に生きたデカルトは近代哲学の父と呼ばれるフランスを代表する哲学者です。彼が書いた『方法序説』の中の『気象学』で虹について考察しています。デカルトは大きなガラス瓶に水を入れて大きな水滴をつくり、そのガラス球を雨滴として太陽の光が反射と屈折をして虹ができることを証明しました。
虹の色については『屈折光学』で述べています。色を引き起こすものを粒子の回転速度によると考えました。「赤」と感じるものは最も回転速度が速く、速度が遅くなるに従い色は黄、緑、青へと変化していくと考えたのです。この考えの根拠に多数の面をカットされたガラスに虹に似たものが見られることをあげて、光線がそこに入る入り方がさまざまであること以外に色を引き起こすものはないと考えました。
虹の色については科学的に証明することはまだできなかったのですね。

虹を初めて科学的に解明したのはニュートン! 近代科学の祖です

ニュートンといえば、リンゴが木から落ちるのを見て万有引力の存在に気付いたことで有名です。もう一つ彼が気になっていたことに虹がありました。望遠鏡を覗くと像のまわりに見える虹色のにじみです。ニュートンは先達による長年の研究から大いにヒントを得て1666年に実験を行いました。
晴れた日に暗室の壁に1/3インチの小さな穴を開けプリズムを置き、12フィート離れた反対側の壁に白いスクリーンを置きました。穴から入った太陽光(白色光)はプリズムに当たり透過すると分光しスクリーンに細長い光の帯、虹となりました。これによってニュートンはこの虹の色は白色光が分離されたものと考えました。
次に虹色に分離された色の光を収束レンズによって集める実験を行い、すべての色の光を集めるともとの光、白色光となることを明らかにしました。またプリズムを通して得た光の色、例えば赤の色光だけを再びプリズムに通しスクリーンに映すと、赤の色光だけが映りました。このことから分光された色はこれ以上分光しない単体光、ひとつの波長からなる光であることがわかりました。
このようにギリシアからの古典的な考えから抜け出し、光の物理的性質と色の関係を科学的な実験で「光」とは何かを明らかにしたのはニュートンなのです。

虹といえば七色! と思っているあなたへ、見え方はそれぞれ違うようです

赤、橙、黄、緑、青、藍、紫。誰でも言える虹の七色、常識でよね。ところがこれが常識として通じる国は少ないようですよ。アメリカで虹は6色、ベルギー、ドイツ、ロシアでは色に違いがありますが5色だそうです。意外ですね。アメリカ人にとって藍色は青の一種となり、ベルギー人にとっては藍も紫も濃い青ということだそうです。
虹を七色としたのはニュートンです。最初ニュートンは虹を赤、黄、緑、青、紫の5色としていましたが、音階の理論と無理に結びつけて7色とするために橙と藍を挿入したとされています。その背景にはニュートンが密かにキリスト教の歴史や錬金術の研究をして神秘主義に傾倒していたことが考えられるそうです。近代科学の祖としての大発見と神秘主義、相反するようですがこのふたつがあることがニュートンの魅力なのかも知れません。
科学的に解明されても虹には不思議な魅力がありますね。それは大空に鮮やかな色で雄大にかかるからでしょうか。始まりも果ても見えずぼんやり見とれているとあっという間に消えてしまいますが、消えてしまったあとも虹に出会った喜びは心に残ります。この春始めてみる虹を「初虹」というそうです。雨も多くなるころ、そろそろ出会えるかもしれませんよ。
参考:『虹の文化史』杉山久仁彦 河出書房新社