南から北へ、満開の桜でおおいつくされてゆく日本列島。今まさに春爛漫のお花見シーズンもたけなわです。今年は例年に較べ、桜の開花も少々早いようで、今週末はお花見に出掛ける方も多いことでしょう。本日より4月。薄紅の桜景色と共に旧暦名・卯月が始まります。

卯の花の「卯」か、うさぎの「卯」か。「植月」か…卯月の名の由来

本日より暦変わって、4月、旧暦の名では「卯月」となりました。なぜ「卯月」と呼ばれるのか、この名の由来を少々紐解いてみましょう。
旧暦の卯月の頃といえば、すっかり初夏の風情で宮中では衣替えをする時節。この折に咲く花の中に、白色の小さな花を初夏につける「空木(うつぎ)」があります。幹が中空であることから空木と名付けられたその落葉低木の花を「卯の花」とも呼ぶのですが、この可憐な花にちなみ月の名も「卯花月」とし、それを略して「卯月」となったというのが、まず一説め。
また、かの新井白石も支持したのが、十二支の四番目の干支が「卯」であることから、四番目の月を「卯月」にしたという説。さらに、稲の苗を植える「植え月」から「うづき」、「卯月」となったという説など様々にあるようです。
このほかにも卯月の別称としては、花残月、夏初月、清和月などもあり、温暖化のためか今年は3月下旬に桜が咲いて以来、旧歴の名のごとく初夏のような陽気に恵まれた晴朗な日が続いています。

お花見気分もたけなわ。日本の花見の源流とは

お花見に絶好な花時を迎えた地方も多い今週末。こぞって花の名所へ出掛る方も多いかと思います。
そもそも桜はその昔、花の美しさのみが愛でられていたわけではなく、稲の花の象徴と見立てられ、収穫の前兆とされてきたようです。「山ざくら吉野まうでの花しねをたづねむ人のかてにつつまむ」という西行の歌からも、桜の枝に神饌である米を包んで結び付け、神に豊作を祈っていた里山の習わしがうかがえます。
年に一度、一斉に花を咲かせる桜花。その艶やかさが人の心を躍らせ、散りゆくその風情が、人の心を切なくさせる。花見という日本ならではの年中行事には、華やかさにわく喜びと、散ることを惜しむ気持ちが入り交じっているような気がします。
桜が呼び覚ます哀歓の思いは、その昔、花の咲き具合で作物の豊凶を占い、花が早く散ると収穫にとって悪い前兆であったとした、人々の生活への切実さがあったことから派生してきているのかもしれません。
桜の歌を多く詠んだ西行が、花をたずね訪れた奈良の吉野は、古くからの桜の名所。江戸時代には徳川家光が、吉野の花景を再現しようと上野に桜を植えさせ、さらに吉宗が墨田川の堤や飛鳥山に植えたことから、春の行楽・花見が江戸の庶民に広がったのだそうです。満開の桜のもとで、酒を酌み交わし宴を楽しむといった風景は、今も昔も、これからもきっと、変わらない日本の春の風物詩なのでしょう。

桜は染井吉野だけにあらず。初花から余花まで風情も趣も千差万別

江戸時代後期に誕生した染井吉野は、明治以降全国に広がり、今最も多く見られる桜です。しかしながら、桜に関する実験的理論や技術を、最高度に発揮できたのは、江戸時代の享保から享和あたりのこと。実に多種多彩な桜の品種が当時生まれていたと聞きます。
早春に暖かい地域でいち早く咲く彼岸桜、ふんわりと咲きこぼれる八重桜、高い山や北国で遅れて咲く桜…初花、花、残花、余花と、折々の季語になっている桜花はどれも美しく、それぞれがはっと見る者の心を捕らえて離さない趣に満ちています。先日、野生種の山桜の新種が、実に103年ぶりに野で発見されたニュースもありました。
南の果てから北の果てまで、風情も佇まいも様々な桜が爛漫と咲いては、はらはらと吹雪となって散る花時が、今まさに列島を北上しているのです。

※参考/「花」山本健吉、現代こよみ読み解き事典