3月31日は、七十二候の一つで二十四節気の春分の末候にあたる「雷乃発声(かみなりすなわちこえをはっす)」。遠くで雷の音がし始める、つまり雷が起こり始める頃という意味になります。雷は季節を通して発生しますが、夏に多い気象現象なので、季語としては夏のもの。しかし春もまた雷の印象的な季節で、「春雷(しゅんらい)」の季語によって、さまざまに詠まれています。夏に比べ、のどかで柔らかな感のある春の雷。その俳句の風景を眺めてみましょう。

春雷の音変へて野を走りけり

春の雷は、寒冷前線の通過の際に、前線の近くに積乱雲が発達して起きます。その発達が激しいときには雹を降らせ、畑の作物に被害を及ぼすことも。また地方によっては春雷とは言っても、雪を伴うことも少なくありません。地域の風景や大いなる海山が、雷光に浮かび上がる句を挙げてみましょう。

春もまた雪雷やしなの山
<一茶>
春雷のこだまぞきそふ甲斐の国
<多田裕計>
春雷のころがりゆける毛野の国
<中島大三郎>
春雷や俄にかわる洋の色
<杉田久女>
春雷の音変へて野を走りけり
<河野南畦>
春雷や紐むらさきに壁鏡
<星野麥丘人>

しなの山は、信濃の山。比良は、比叡山の北に連なる山。毛野は、関東地方北西部の地域を指します。

春雷といふやさしさを海の上

季語では、立春後初めての雷は「初雷」、啓蟄の頃の雷を「虫出しの雷」と形容します。雷に驚いて虫が地上に出てくる様に戯画化して、地中の虫が這い出す啓蟄を重ねるユーモアが、日本人の妙ですね。春雷は夏の雷とは違い鳴っても長くは続かず、短く轟くだけで終わることが多いようです。それでも春のうららかな気分を一瞬破り、人を覚醒させるかの、春の雷。そんな陰陽も様々に詠まれています。

春雷のたどたどとして終わりけり
<細見綾子>
一つ鳴ってその後遠し春の雷
<江濱義翁>
春雷といふやさしさを海の上
<江見 渉>
春雷やぽたりぽたりと落椿
<松本たかし>
春雷は空にあそびて地に降りず
<福田甲子男>
春雷にむち打たれたる思ひかな
<星野立子>
春雷はあめにかはれり夜の対坐
<鈴木しづ子>
下町は雨になりけり春の雷(らい)
<正岡子規>
今年の春のはじまりは、雪も雨も雷も桜も、すべて一度に到来したかのようでした。穏やかな気候が続くことを願いたいものですね。

【句の引用と参考文献】
『新日本大歳時記 カラー版 春』(講談社)
『カラー図説 日本大歳時記 春』(講談社)
『読んでわかる俳句 日本の歳時記 春 』(小学館)

6~7mmの雹が降ることも
6~7mmの雹が降ることも