今日は建国記念の日。うれしい3連休の中日、という方も多いのではないでしょうか。アメリカやフランスの建国記念にあたる日は、打ち上げ花火やパレードで盛大に祝います。このように国をあげてイベントが催されることが多いなか、日本ではこれといった行事はありません。それはいったいなぜなのでしょうか。神話の国、日本の神秘を紐解いてみましょう。

実は世界最古の国だった!?建国記念日にみる、世界のなかの日本

2月11日は、『古事記』(712年)や『日本書紀』(720年)で、初代天皇とされる神武天皇(じんむてんのう)の即位日。旧暦の紀元前660年1月1日と日本書紀に記載があり、その即位月日を明治に入り新暦に換算した日付となります。
建国日を法律で定めて国民の祝日とする国は多いですが、その制定の背景は国によって異なります。なかでも多数を占めるのが、植民地支配からの独立や革命による新しい国家の誕生といった、主に近代国家が成立した日を建国記念日とする国です。アメリカは、独立宣言が交付された1776年7月4日、フランスでは革命の発端となったバスチーユ監獄襲撃の日である1789年7月14日、ドイツは1990年10月3日の東西ドイツ統一の日、中国は天安門で新国家の成立が宣言された1949年10月1日にちなんだ日付が、それぞれ建国記念日となっています。
そのなかにあって異彩を放つ日本の建国記念の日。はるか遡ること紀元前660年、神話上の人物ともされる神武天皇が大和国(やまとのくに、現・奈良県)の橿原宮(かしはらのみや)で初代天皇として即位した日だったとは!

ここにも忖度が!?曖昧さや変化を受け入れる、日本独自の価値観

「建国記念日」ではなく「建国記念の日」とされたのにも理由があります。日本では実際の建国日が明確ではないため(!)、神話をもとに建国を祝う日として定められたのです。名称に「の」の字が入っているのは、この日が歴史的に建国された日ではなく、建国されたという事柄を記念する、という意味が反映されているのです。
建国記念の日が制定されたのは、昭和41年(1966年)。「建国をしのび、国を愛する心を養う」というのがその趣旨です。世界の国々のように独立戦争や革命によって勝ちとった歴史的事実としての「建国を共に祝う」のではなく、日本という「国があることに感謝する」。そんな気持ちで心穏やかに過ごすのが、日本における建国記念の日なのかもしれません。
実際に、現在は国の行事は行われてはおらず、各地の神社で「紀元節祭」として祭儀が催されているそうです。一方、明治時代の「紀元節」といえば、四方拝(元日)、天長節(天皇誕生日)、明治節(現在の文化の日)と並んで四大節(しだいせつ)と呼ばれ、最も重要な行事のひとつでした。このあたりに、戦前から戦後を経た日本の歴史観の転換や、生活スタイルの変化を垣間見ることができますね。

現在にも受け継がれる、神話の世界に想いを馳せる

建国記念の日のキーパーソン・神武天皇が登場する『古事記』と『日本書紀』は、共に天武天皇(てんむてんのう、生年不明〜686年10月1日)の命によって編纂された日本の歴史書。違いは、『古事記』(全3巻)は国内向けに書かれた天皇家にまつわる書物、『日本書紀』(全30巻)は海外に向けて発信された国の成立や歴史を示す書物であることです。
神武天皇は『古事記』では127歳で、『日本書紀』では137歳の時に亡くなったと記されており、すでにこの時点で神話上の人物である要素が満載です。しかも、八百万の神のなかでも最も尊い神である太陽神・天照大神(あまてらすおおみかみ、あまてらすおおかみ)は、天皇の祖神とされているのです。皇室系図によると日本の初代天皇が神武天皇にあたり、その流れは現在まで引き継がれています。神話の世界は、今を生きる私たちの時代にも確実に息づいているのですね。建国記念の日の今日、日本の神話を紐解きながら、いにしえの神々に想いを馳せてみるのも一興といえるのではないでしょうか。

参考文献
岡田芳朗 、松井吉昭 『年中行事読本 日本の四季を愉しむ歳時ごよみ』創元社 2013