昨晩の皆既月食はご覧になりましたでしょうか?高い天空に煌めき冴えた冬の満月が、次第に赤く染まったスーパーブルーレッドムーンを、観測した方も多いことと思います。一夜明け、本日からは如月・2月。今年は雪も多く、ますます寒さは厳しくなるなか、春を告げる花・梅が咲きほころびはじめています。

キサラギ、如月、更衣着の語源、由来は…

旧暦2月の異称は、いわずと知れた如月(キサラギ)ですね。このキサラギ、「如月」とも書き、「更衣着」とも書きますが、あまり由来はわかってないそうなのです。2月は寒く、衣を更に重ねる月だから。草木の芽が張り出す月だから。去年の旧暦8月に雁が来て、さらに燕がやって来出す月だからなど、諸説あり、定かではありません。
しかし如月は、何とはなしに品格のある名称で、一年で最も寒く、最も短いこの2月の異称としてはこれ以上ふさわしい名もない気がするような。
願はくは 花の下にて 春死なん その如月の 望月のころ
と詠んだのは、西行ですが、西行が没した2月15日は西行忌。「如月の望月のころ」とは2月の満月の日をさすので15日。現在の太陽暦では3月末にあたることから、西行が愛する桜が満開の折りでもあり、釈迦入滅の日でもあるのだとかとか。西行は願いを叶えて、この日に亡くなったということです。

節分、立春、バレンタインデー、如月の行事・歳時記

年が改まり早くも一カ月が去り、春のはじまりとされる「立春」は今年は2月4日。1日前の「節分」は3日にやってきます。節分は雑節の一つで、もともと立春・立夏・立秋・立冬の前日をさし、立春のみ残ったもの。立春正月を迎え、季節が冬から春に変化する前日を一年最後の日になり、邪気を祓い、幸せを呼び込む様々な行事が行われてきたのです。
福は内、鬼は外と、豆まきをする風習は中国から伝わり、宮中行事の一つであったそうで、毎年の大晦日の鬼を追い払うために行われていました。豆まきの後、年の数だけ豆をいただくのは、年取りの行事だった名残なのでしょうか。年々取りたくないなと思う年も、またいやおうなく、取ってしまうという訳です。
ほかバレンタインデーや初午、札幌の雪祭り、秋田県横手市のかまくら、そして全国各地での梅祭りが始まり出すと、2月もあっという間に過ぎ去っていきそうですね。

如月の別名の一つには、「梅見月」も。梅の花を愛でるころ

暖かい陽光に誘われて、次第に丸く蕾をふくらませて、少しずつ咲きほころんでくる梅の花。2月はこの梅の花を雪の中で愛でることができる季節です。
御園生の 百木の梅の 散る花し 天に飛び上がり 雪と降りけむ
この大伴書持(ふみもち)の歌は、父・旅人が
我が園に 梅の花散る ひさかたの 天より雪の 流れ来るかも
に追和した歌で、梅の花が散り、雪となって降るといった夢のように美しい幻のような情景を歌ったものでしょうか。万葉集には、このほかにも実に多くの梅の花の歌がおさめられています。
雪の上に 照れる月夜に 梅の花 折りて送らむ はしき子もがも
これは、大伴家持による一首。雪と月と花が一首に組み合わされた、和歌で最初のものとされています。雪月花はもともと漢語で、琴詩酒と並び風雅な題材とされていたもの。日本において雪月花の見立てや取り合わせで歌を詠むようになるのが確立するのは、平安の中期ころ。この家持の歌は、その最たる先駆けだったのだそうです。

今宵は東京でも雪になるのか、ならないのか。楽しみでもあり、厄介でもあり。それでもあたり一面が純白になった雪の朝の清浄な風景は、この時季ならではの美しさです。その白い雪の中で可憐に咲きほころぶ梅、そして春を告げる鴬の初音を心待ちに、日々健やかに過ごしたい如月となりました。

※参考
萬葉集(伊藤博/集英社文庫)、現代こよみ読み解き事典(柏書房)