寒梅や雪ひるがへる花の上—俳句歳時記を楽しむ

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厳しい寒さが続く中、地域によっては、早咲きの梅が開花する頃となりました。俳句の世界では梅は春の季語ですが、「早梅」「寒梅」などは、晩冬の季語にあたります。ほころび始めた梅の花の俳句を味わいながら、春の気配を待ちわびることにいたしましょう。 寒梅の唯一輪の日向かな 冬に花を開く梅は、「冬の梅」「寒梅」「寒紅梅」などの季語で示されます。寒梅は寒中に咲く梅全般をいい、寒紅梅は十二月頃から咲き始める紅色または淡紅色の梅で、主に八重咲きです。春の梅には清々しく、新しい季節の訪れが体現された雰囲気がありますが、冬の梅は凛とした印象を感じさせます。冷たい空気の中に品格を感じさせる、寒梅の句を列挙してみます。 寒梅や雪ひるがへる花の上    <蓼太> 寒梅やつぼみふれあふ仄明り   <石橋秀野> 寒梅の唯一輪の日向かな     <高浜年尾> 峡(かい)二つ日あたる方に冬の梅  <水原秋桜子> 両側に山の迫る狭間のうち、日照の良い方にはもう梅が咲きはじめている。誰もが思い当たることの多い光景を、見事に五七五に切り取っています。 寒梅や奈良の墨屋があるじ㒵(がほ)  <蕪村> こちらは異色ながらも、リアルにシチュエーションが思い浮かぶ一句です。奈良は筆発祥の地で和墨の生産地としても栄え、江戸以前から続く老舗の墨屋も存在します。寒梅の咲く中、蕪村は誇り高き墨屋の主人との間に、どんな交流があったのでしょうか。微笑ましい一句です。 早梅や日はありながら風の中 「早梅」は、季節より早く咲いた梅を指します。暖地では年明けとともに開き始める梅もあり、またその年の気候によっても差があります。寒梅や冬の梅は寒さに耐えて健気に咲くイメージがありますが、早梅の句には、春の到来への期待が満ちています。 早梅に風の荒ぶる浅間かな    <皆川盤水> 早梅や日はありながら風の中   <原石鼎> 特に寒さの厳しい今年は、まさにこの句の日々がしばらく続きそうです。暖かい春が待ち遠しいのは人も梅も、でしょうか。 早梅の紅くて父と母の家     <加倉井秋を> 早梅やあかるくて風強き国    <広瀬町子> 早梅の世間知らずの花二三    <中原道夫> 早梅の発止発止と咲きにけり   <福永耕二> 急に暖かくなった日でしょうか、蕾たちが待ち焦がれていたように次々に咲く様を、はっしはっしとリズミカルに表現した楽しい句です。 探梅や枝の先なる梅の花 「探梅」は、早咲きの梅を探して山野を尋ね歩くことを意味する晩冬の季語で、「梅探る」「探梅行」と同義です。名所などの梅林の花が咲き乱れているのをみる「観梅」とは趣が異なります。探梅の句は、これまでご紹介した梅そのものの句から、道中の景色や参加者の動向の描写へ広がる句となっていくのが興味深いところです。 香を探る梅に蔵みる軒端かな   <芭蕉> 和歌から派生した連作形式の詩歌である「連歌」で、冬の題と定められた探梅。これを俳諧に適用したのが芭蕉です。探梅ではなく、香りを探る、としたのが憎い演出。商売の人の新居に招かれ、風雅な土蔵のそばに早咲きの梅を見出した、という物語で挨拶としたそうです。 この道をわれらが往くや探梅行  <高浜虚子> 探梅や遠き昔の汽車にのり     <山口誓子> 探梅のこころもとなき人数かな   <後藤夜半> 探梅に夕日まだある天守閣     <山本洋子> 探梅行紀州一国見下ろして     <大島雄作> 探梅や眉の濃き子を伴ひて     <川崎展宏> 探梅や枝の先なる梅の花      <高野 素十> たくさんの句から、時代が移ると、探梅にピクニック気分が重ねられていく心地が伝わりますね。そして最後の句は、この寒さで咲いている梅が見つかるや否や‥と探した末に眼にした、枝先に花を開いた梅一輪。作者の印象と感銘が凝縮されています。 梅の名所は全国各地にありますが、水戸の偕楽園や小石川後楽園では、梅の開花状況も告知されています。満開シーズンの前にも、春の便りを届けてくれる梅を探しに、出かけてみませんか? 【句の引用と参考文献】 『新日本大歳時記 カラー版 冬』(講談社) 『カラー図説 日本大歳時記 冬』(講談社) 『読んでわかる俳句 日本の歳時記冬・新年 』(小学館) 『第三版 俳句歳時記〈冬の部〉』(角川書店)

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