2月の詩歌──“爪痛い”空気と、高まる春への期待

2018/01/31 16:30

1月下旬から2月上旬にかけては、一年で最も寒い時季で、今年はことのほか厳しい寒さになっています。 今の季節を表す季語「寒し」「冷たし」「冴(さ)ゆる」などが歳時記には記されていますが、「冷たし」というのは「爪痛し」からきている言葉だといいます。 あらゆるものがみな冷え切っていて、指先で触れると痛いようにも感じるうえ、風も冷たく、日が短く、身も心も縮こまってしまいがち……。出かけるのもついついおっくうになりがちですが、そういえば「冬籠(ごも)り」という季語もこの季節のもの。今回は厳しい寒さの中で春の兆しを待ちわびる……そんな詩歌をご紹介します。

いちばん星空がきれいな季節。そんな冬の夜空に輝くオリオン座
いちばん星空がきれいな季節。そんな冬の夜空に輝くオリオン座
明治33(1900)年に生まれ、平成9(1997)年に生涯を閉じた俳人・永田耕衣の句は、北風に自分をたとえて吹きすさんでいるかのような人生を詠んでいます。 〈寒風吹く何か面白き事無きやと〉永田耕衣 そのほかにもこんな詩歌があります。 〈手で顔を撫づれば鼻の冷たさよ〉高浜虚子 〈しんしんと寒さがたのし歩みゆく〉星野立子 〈大空に月ぶら下り雲凍(い)てぬ〉池上浩山人 〈北風や青空ながら暮果てゝ〉芝不器男 〈日のあたる紙屑籠や冬ごもり〉日野草城 〈海に出て木枯帰るところなし〉山口誓子 空気が澄んでいることから、光が鋭く見える冬の月や星は、夏のものより冴え冴えとしてまるで氷のようにも感じられますが、中村草田男(1901年─1983年)の句は、オリオンをそろばんに見立てているのでしょう。 〈寒星や神の算盤(そろばん)たゞひそか〉中村草田男 〈寒月やいよいよ冴えて風の声〉永井荷風 〈天の原空さへさえややわたるらんこほり(氷)と見ゆる冬の夜の月〉恵慶法師 〈何ものの声到るとも思はぬに星に向き北に向き耳冴ゆる〉安永蕗子 〈病院の真上の二月澄みにけり〉金田咲子 冷たい冬の空気に言葉が火花を立ててぶつかるような、ちょっと不思議でシュールな句もあります。 〈冬乾く冬のレールにパンの耳〉秋元不死男 〈冬鴎わがペン先に来つつあり〉皆吉司 〈枯れ木に耳を当てれば 遠くオルゴール〉富澤赤黄男
北アルプスと満月
北アルプスと満月
冬来たりなば春遠からじ 雪や霜も多くの詩歌に詠まれています。俳句、短歌、新体詩、小説、評論、随筆など多方面にわたる創作活動に従事し、34歳の若さで亡くなった正岡子規(1867年─1902年)の句は、一見何でもない句のようですが、後半生(約7年)を寝たきりで過ごした子規の境遇を知れば胸に迫ります。 〈いくたびも雪の深さを尋ねけり〉正岡子規 〈海の中鯖青くして雪止みぬ〉平畑静塔 〈雪を来て少女等の語尾舞ふごとし〉加藤楸邨 〈かん酒や深雪とならん深雪になれ〉渡邉白泉 〈月光をさだかに霜の降りにけり〉松村蒼石 〈限りなく降る雪何をもたらすや〉西東三鬼 春はまだまだ遠いのですが、「冬来たりなば春遠からじ」(冬が来たのだったら、春ももう遠くないはずだろう)の言葉もあります。 春の静かな兆しへの期待を冬の詩歌はひめているようにも思われます。「冬」の語源は、ヒユ(冷・寒)の転ともされますが、フユル(殖)の意味があるともいいます。 〈白葱のひかりの棒をいま刻む〉黒田杏子 〈冬の土こごりきびしくなりにけり球根を埋めてにじむもの待つ〉北原白秋 ── 厳しい寒さゆえ、心も体もクローズになりがちですが、それだけに冬は心象的な風景に恵まれた時季ともいえます。首都高速通行止めで一般道が大型トラック等で埋め尽くされ、大渋滞が発生。あるいは都心の公園でも氷が張り、日比谷公園・雲形池の鶴の像の羽に見事なつららができる珍しい光景も……。こんな光景を詠むとしたら、みなさんはどんな言葉を紡ぐでしょうか。

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