一挙に秋めいてきたこのごろ。朝夕の空気の冷え込みに草木が露を含む二十四節気「白露(はくろ)」となりました。七十二候でも本日より「草露白(くさのつゆしろし)」。可憐な風情の秋の花々や月の煌々とした光が、深い感慨とともに心に刻まれゆく時節です。

陰気ようやく重なりて露こごりて白色となればなり

今年はどういうわけかはっきりしない天気も多かった8月から、9月へ。旧暦名で、「長月(ながつき)」となりました。
古来、「夜長月」の略であるともいわれる長月。次第に日暮れも早くなり、夜風にさっと湿り気を帯びた空気が冷やされ、白い露を草木の上で結びます。
太陽は黄径165度の点を通過して二十四節気は「白露」となり、暦注解説書「暦便覧」には、“陰気ようやく重なりて露こごりて白色となればなり”と記されているように、めっきり秋を感じるころとなります。七十二候も同時に「草露白」を迎え、夜半草に降りた露が、明け方とともに白く射す光の中できらきらと輝くのです。

秋になると思いを馳せる、新旧・秋花七種

~萩が花尾花葛花(をばなくずはな)撫子(なでしこ)の花
女郎花(をみなへし)また藤袴(ふぢはかま)朝顔(あさがほ)の花~
と、山上憶良が万葉集で詠んだ秋の花たちが、秋の七草の発祥。以来、ハギ、ススキ、クズ、カワラナデシコ、オミナエシ、フジバカマ、キキョウが、秋を代表する七草となってきました。
近年ではそんな秋の七草を時代に即したものにと、新たに考案されてきたこともあります。そのなかの一つ、昭和10年に東京日日新聞(現・毎日新聞)が各界の名士に依頼して選んだ「新秋の七草」にあげられていたのは、
コスモス、白粉花(オシロイバナ)、秋海棠(シュウカイドウ)、雁来紅(ハゲイトウ)、菊、曼珠沙華(ヒガンバナ)、赤のまんま(イヌタデ)
コスモスは菊池寛、白粉花は与謝野晶子、秋海棠は辻永、雁来紅は長谷川時雨、曼珠沙華は斎藤茂吉、菊は牧野富太郎、赤まんまは高浜虚子と、そうそうたる顔ぶれが、おのおのが思う秋の花を推挙したのだそう。

また、この新七草に関して叙情詩人であり小説家であった佐藤春夫が綴った「秋草七種」という随筆があり、その中で自選の七草
からすうり、ひよどり上戸、あかまんま、かがり、つりがね、のぎく、みづひき
と、花に限らず山野の植物をあげていて、叙情詩人・佐藤春夫による秋の美はどれも趣あるものばかりです。図鑑などで、いったいどんな花や実なのか調べてみても愉しいもの。平成の世に生きる自分自身で選ぶとしたら、どんな七草を選ぶか思い浮かべてみるのもまた、一興かもしれません。

長月の秋の夜長、銀白色の月も煌々と

さて、いよいよ秋の夜長となり、お月見に絶好なシーズンを迎えました。秋雨の晴れ間からのぞく月の冴え冴えとした輝きに、秋の深まりを感じていくこれからの日々。今年は10月4日に迎える十五夜・仲秋の名月を含め秋は、まさに眺めるにふさわしい高さで月が上空から照り輝きます。
昔ならではの月待ちの行事にならい、仲間で賑やかに集って食事やお酒を楽しみながら月の出を待つのも、まさに秋ならではのお楽しみ。
ぐっと夜は低くなる気温に、くれぐれも風邪などひかないよう気を付けて、秋の美、秋の味を心ゆくまで愛でましょう。