立ちかこむ杉真青に盂蘭盆会:俳句歳時記を楽しむ

2017/07/15 11:00

「盂蘭盆会(うらぼんえ)」とは、7月13日から16日に行われる仏事のことで、「お盆」の正式名称です。先祖の霊を迎え、もてなし、送るまでの諸行事で「盂蘭盆」「魂祭・玉祭(たままつり)」ともいいます。日本各地で猛暑の最中ですが、昔は旧暦で行われたため、初秋の季語となっています。様々な人々の思いが込められた一連の祖霊供養の世界を、俳句で探ってみましょう。

四天王寺盂蘭盆会
四天王寺盂蘭盆会
目に見えぬもののいそがし玉祭 盂蘭盆会は、日本に7世紀のなかば以前に伝わった仏教行事とされ、時代を経て江戸時代には、現在のような庶民の盆の形が完成されたそうです。供養の方法は地方により多少異なりますが、12日には盆用意のための草市(盆市)が立ち、13日の宵、迎え火や盆提灯で先祖を迎えて家には盆棚・精霊棚(しょうりょうだな)をつくり、祖先の霊を招いて僧侶に棚経をあげてもらいます。そして16日の宵に送り火を焚いて霊を送り出すのです。 俳句では、この一連の行事や用意される道具などがそのまま季語となっています。昔は旧暦で行われた行事で、明治以降は地方によって新暦と旧暦それぞれ時期が分かれたものの、都会では新暦で行う所も多いですね。とはいえ一般的に「お盆休み」といえば、旧暦7月15日に近い新暦8月15日前後の休暇を指すようです。 盂蘭盆会の期間に、遠く離れていた家族たちが帰省する家も多いでしょう。皆で先祖を偲び墓参りや寺参りに出かけ、あるいは盆踊りをするという行事が広く行われていています。久々に集まった家族たちや招かれた霊が、賑やかにひと時を過ごす家も少なくないことでしょう。こちらは江戸中期の俳人、乙由の句です。 ・目に見えぬもののいそがし玉祭   乙由 ②
白樺の皮焚く門や魂迎 「門火」は、13日の夕方に霊を迎えるために、門辺で苧殻(おがら)や樺の皮などを焚く迎え火、及び16日の精霊を送るための送り火の総称です。「魂迎(たまむかえ)」「魂送」と同義の季語です。ちなみに、苧殻とは皮をはいだ麻の茎のこと。 ・白樺の皮焚く門や魂迎       石橋辰之助④ ・とある路地苧殻たく火ほのぼのと  長谷川素逝① ・逆縁の迎火孫と跼(かが)み焚く  中村将晴① ・老母に苧殻の炎ぽと消えぬ     永方裕子① ・燃えてゆく写経の文字や門火焚く  梶原登喜子① 江戸の頃の俳句にも、現代人のお盆と共通する感覚が見つかります。特に小林一茶の俳句のお盆は、まるで親戚か、近所の叔父さんの呟きのようです。 ・御仏はさびしき盆とおぼすらん    一茶 ① ・飯過や涼みがてらの魂迎       一茶② 晩飯の後、涼みがてらに迎え火を焚きに出る。カジュアルな魂迎えの様子が目に浮かびます。 ・雀らもせうばんしたり蓮の飯    一茶③ 蓮の飯は、蓮の葉で包んだもち米のご飯のこと。お盆の風習で、仏前に備えたあと親戚などに届けました。そのご飯を雀にも与えてせいばん、つまり相伴したという微笑ましい句です。
靖国神社(みたままつり)
靖国神社(みたままつり)
寅さんの映画に行けり生身魂 健在する高齢の父母や年長者を、盆に「生身の魂」として先祖の霊とともに敬い、物を献上したり馳走する風習が「生身魂(いきみたま)」です。「生御魂」「生身玉」「生き盆」とも言います。つまりお盆は先祖の霊の供養のみならず、長生きした身内を祝福する機会でもあったのですね。現代にもたくさんのユーモアたっぷりの生身魂の句が作られているのは、高齢化時代へのさまざまな思いが込められたのかもしれません。 ・古里にふたりそろひて生身魂    阿波野青畝① ・握り飯二個持ち家出生身魂     右城暮石① ・生身魂昼湯のあとの酒五勺     板谷芳浄① ・寅さんの映画に行けり生身魂    蟇目良雨① ・助手席に犬うしろには生身魂    はしもと風里① ・生身玉やがて我等も菰の上     一茶 ② 一茶は、いつかは人間誰しも、魂となって魂棚に敷いた真菰(こも)の筵(むしろ)の上に祀られるのだ、と飄々と語っているのですね。 ・魂祭り吾れは親より老いにけり    内藤鳴雪①
四天王寺で毎夏行われる裏お盆「菊水丸」の盆踊り
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灯籠のよるべなき身のながれけり 灯籠流しは、16日の宵、火を灯した灯籠を川に浮かべて流し精霊を送る行事です。海や湖に流すこともあります。水に揺らめく灯籠の火影とともに、先祖の霊はあの世に帰って行きます。 ・灯籠のよるべなき身のながれけり      久保田万太郎② ・鳥けものまはりに遊び川施餓鬼       桂信子② ・百千の経木(きょうぎ)きらめく海施餓鬼  三好潤子② 経木は、経文・法名を記した細長く薄い板。施餓鬼は、もとは供養されることなく餓鬼道に苦しんでいる無縁亡者を弔う法会です。水死者を弔うことを川施餓鬼、海施餓鬼や舟施餓鬼といいます。穏やかに仏になって欲しいという思いを込めた弔いです。 さて俳句では、踊りといえば盆踊りを指し、盆に招かれてくる先祖の霊を慰め、これを送るために集まり踊り唄ることが本来の意味でした。盆踊りは、あの世の者とこの世の者が交差する場でもあったのですね。 ・不思議やな汝(な)れが踊れば吾が泣く    高浜虚子① ・帰り来し死者も見にゆく盆踊         谷野予志① ・一ところくらきをくゞる踊りの輪       橋本多佳子① ・いくたびも月にのけぞる踊かな        加藤三七子① ・人の世のかなしきうたを踊るなり       長谷川素逝① 俳句では、「墓参り」も盂蘭盆会で祖先の墓に参ることを指しますし、有名な京都の大文字も盆行事の一つ。日本仏法最初の官寺、四天王寺のお盆供養の万灯供養も良く知られています。現代では簡略化されつつあるお盆の行事ですが、もともとサンスクリット語を語源とする盂蘭盆の起源に思いを馳せ、7月・8月に新たな思いで先祖の霊を迎えたいものです。 ・立ちかこむ杉真青に盂蘭盆会         水原秋櫻子④ 句の引用と参考文献: ➀:『カラー版 新日本大歳時記 秋』(講談社) ②:『読んでわかる俳句 日本の歳時記 秋』(小学館) ③:『ザ・俳句十万人歳時記 秋』 (第三書館) ④:『第三版 俳句歳時記〈秋の部〉』(角川書店)
京都の夏 広沢池千灯流し
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