北陸の地、富山の春の風物詩といえば、そう「ホタルイカ」。4~5月が最盛期といわれていますが、この時期になると、旬のホタルイカが市場に多く出まわります。お酒好きにとってはホタルイカの沖漬けなど春を感じられるつまみとして、楽しみにしている人も多いことでしょう。
そんなホタルイカですが、その生態は神秘に包まれています。その名のとおり、なぜ光るのか? ホタルイカのほとんどが富山で水揚げされること……など、謎が多い生物でもあります。今回はホタルイカの生態に迫ります。

春の風物詩、ホタルイカの沖漬け
春の風物詩、ホタルイカの沖漬け

ホタルイカはなぜ光る?

ホタルイカといえば、まさにその名のとおりホタルのように美しく光を放つ姿がとても神秘的な生物です。ホタルイカはほぼ全身に発光器があるといわれています。全身にある発光器の数はなんと約1000個もあるというから驚きですね。体全体だけでなく、目の周りや足の先まで隅から隅まで発光器があるといわれているからには、きっと何か光らなければいけない理由があるはず……。
そしてその回答ですが、ホタルイカが体全体を光らせる理由は「外敵から身を守るため」といわれています。
でも、夜の暗い海でホタルイカだけが光りすぎると逆に目立ってしまいそうですよね。でも、海面を照らす月光など、光が反射する効果があるので、その海上の光と同じくらいの光り方をすることで自身の姿を消すことができるのです。これは「カウンターシェーディング効果」と呼ばれるホタルイカをはじめとした深海生物独特の効果、として知られています。

泳いでいるときは、透明感ある姿で
泳いでいるときは、透明感ある姿で

なぜホタルイカは、富山湾に集まる?

ホタルイカは全国各地でも水揚げされますが、圧倒的な数が富山湾に集まってきます。これほどホタルイカが集まってくるのは世界を見渡しても富山湾だけだといいます。そんな富山湾の海域は、なんと「ホタルイカ群遊海面」として国の特別天然記念物に指定されているほど貴重なものなのです。ホタルイカではなくて、ホタルイカが集まる「海面」が特別天然記念物という非常に珍しいパターンです。
富山湾はすり鉢のような地形をしています。また、すり鉢状の底から上に向かって流れる海流も関係してホタルイカが集まりやすい場所ができているのです。さらに、ホタルイカは山陰沖合でも多く産卵しているとされ、山陰沖の水温が高いときは富山湾での漁獲量も多いとされています。ちなみに、今年は10年に一度の大漁ともいわれ、船に一度で積みきれないこともあったのだとか。

ねぶた流しでも有名な富山県滑川の海
ねぶた流しでも有名な富山県滑川の海

神秘的なホタルイカの「身投げ」

ホタルイカは普段深海に生息していますが、産卵のときは浅瀬に上がってきます。そして、一斉に海岸に押し寄せ、産卵が終わると力尽きた形で浜にホタルイカが打ち上げられる様子が「身投げ」です。海岸に打ち上げられたホタルイカの大群は青白く光り、海岸を美しく彩ります。深夜の暗い海の上を青白い光が続いているその光景は、とても神秘的なものです。
富山湾でのホタルイカの身投げは、3~5月に見ることができますが、その条件はいまだはっきりとは解明されていません。新月の夜に見ることができる確率が高いといわれていますが、その他にも様々な気象条件が重なっていないとなかなか見られない貴重な自然現象なのです。
―― 深海にいる生物の中では、わりと親しみやすい存在のホタルイカ。暗い海で光る姿からはその味が想像できないように思えますが、そのおいしさもまた魅力です。今年は大漁といわれるホタルイカ。現地富山とは言わず、全国の食卓で旬の美味しさをぜひ食したいものですね。