七十二候<桃始笑(ももはじめてさく)>桃太郎 出生の謎と、モモの咲かない「桃の節句」

tenki.jp

まわりがパ〜ッと明るくなる、花のような笑顔(笑... (11:00)tenki.jp

まわりがパ〜ッと明るくなる、花のような笑顔(笑... (11:00)tenki.jp
笑うと書いて「さく」。モモの花が愛らしく咲き始める頃となりました…って、すでにひな祭りでモモを飾っているのに、何を今ごろ寝ぼけた挨拶を。とおっしゃるのも無理はありません。3月3日は「桃の節句」、おひなさまの傍らにはモモの花がなければ始まりませんよね! ところが。ひな祭りに飾られるモモは、じつは温室育ちという事実をご存じでしょうか。自然界でまだ咲いていないときにおこなわれる「桃の節句」の事情とは? そして桃といえば、サル・キジ・犬の「きびだんご3兄弟」を率いて鬼退治したあの男子。彼はなぜ、モモから生まれ出てきたのでしょう。

モモが咲いていない季節に「桃の節句」なんて!?

「ひな祭りのあとは一刻も早くおひなさまをしまわないと、お嫁に行き遅れる」
そんな言い伝えにより娘の将来を案じる親たちは、3月3日を過ぎると速攻でひな人形を片付けてしまうといいます。しまい損ねた場合は、後ろ向きに飾って「お帰りになった」「眠られた」とする手があるのだとか…。
おひなさまとともにモモの花が飾られるのは、実際には2月の下旬頃。通常よほど南国でないかぎり、日本の戸外にモモが咲くことはありません。とはいえ、モモは前年の秋にはだいたいつぼみができあがっていて、落葉後の低温や葉でつくられる植物ホルモンによって開花が抑えられている状態なのだそうです。そこで、人工的に暖めて開花を早め、ひな祭りに合わせているというわけですね。そんなにしてまでこの時期にモモを飾って祝うのは、いったいなぜなのでしょう?
江戸時代までの日本人は、月の満ち欠けに基づく「太陰暦」で暮らしていました。現在の「太陽暦」は、国際基準に合わせて明治時代に切り替えられたものなのです。新暦と旧暦では、20日〜50日くらいのズレが生じます。旧暦の3月3日は、現在の暦では4月上旬〜中旬。4月7日くらいのことが多く、モモはまさに花盛り! それならいっそ、4月に「桃の節句」をしたらいいんじゃない?とも思いますが、3月3日にこだわる深い意味があるようです。

5つの節句には薬効のある植物が登場!その理由とは?

桃の節句は、五節句のひとつです。中国の陰陽道では、奇数は縁起の良い陽の数。それが重なる日が、節句として特別に扱われたのですね。一月一日、三月三日、五月五日、七月七日、九月九日(一月一日は元旦のため、節句は七日とされました)。最高にめでたいということは、一方でこれから落ちることにつながるため、邪気を祓う必要も。そこで、節句には薬効のある植物を煎じて飲んだり、薬湯に浸かったりするようになったと考えられています。
3月は、桃。仙果と呼ばれるその実はもちろん、モモの花や葉、種子には(使用の際に注意が必要なほど)強い薬効作用があるといいます。とくに種子は「桃仁(とうにん)」という漢方薬として知られ、血のめぐりを良くし、とりわけ婦人病の改善に効果があるとされます。悪い部分を取り去り百鬼を殺す力がある、とも伝えられるモモ。桃の節句には、種を煎じた薬湯が飲まれる風習もあります。
「もも」という言葉の由来には諸説あり、 産毛で守られているから「毛毛」、たくさんの実がなるから「実実(みみ)」「百(もも)」「諸々(もろもろ)」などが語源といわれています。また桃の漢字にある「兆」には、「兆し(きざし)」「ふたつに割れること」など、妊娠・出産や子宝・子孫繁栄の意味も。可愛い花の佇まいや薬効も含めて、モモは女性の節句にぴったりな植物のようです。
新暦と旧暦、どちらも楽しんで取り入れてみるというのが現代流でしょうか。

桃から生まれた桃太郎!ところで、なぜモモ?

絵本の「ももたろう」に描かれているモモ。昔の日本にあったモモは、こんなふうに先が尖っていたのです! 現在の甘いモモとはちがって、どちらかというと薬がわり。それにしても、まるっこいフルーツは他にもあるのに、桃太郎はどうしてモモから生まれたのでしょうか。
あるところのおばあさんが川で洗濯していると、どんぶらこ、どんぶらこと上流から流れてきた大きなモモ。じつは、桃太郎には「モモの中から男の子が生まれた」というストーリーとは別に、「このモモを食べたおじいさんとおばあさんが元気になって子作りした」というパターンもあるのです。モモの種子の桃仁には、生理不順や更年期障害など婦人病に対する薬効があるため、実際に不妊が治り子宝に恵まれる人も。桃仁は固い核の中に入っていて、割ると出てきます。切ったモモから怪我することなく出てきた桃太郎は、もしや桃仁そのものだったのでは、ともいわれています。
「鬼退治」するなら、断然モモ。中国では、古くからモモの木でつくったお札や人形を魔除けのシンボルとして用いていたといいます。モモには邪気を追い払う霊力があるとされたのですね。日本のもっとも古い神話である『古事記』にも、モモが鬼を退散させる話がすでに登場しています。妻帯者の方は心の準備をしてどうぞ

イザナギノミコトが、死んでしまった妻のイザナミノミコトにもう一度逢いたいと黄泉の国に行きます。扉越しに「一緒に戻ろう」と呼びかける夫。それを聞いた妻は、「許可をもらうから、決して中を覗かないで待っていてね」と言い残して御殿の中へ。
ところが、しびれを切らしたイザナギったら、こっそり扉を開けて真っ暗な部屋に入っていき、火を灯して見てしまうのです。どろどろに腐り果てた、妻の恐ろしすぎる姿を!! イザナギは、ショックのあまり一目散に逃げ出します。
すると、夫の態度に腹を立てたイザナミは、信じられないことに鬼たちをけしかけて追いかけさせるのでした! イザナギがとっさに自分の装身具を投げると、そこから山ブドウやタケノコが生え、鬼がそれを食べている隙に逃げ続けるのですが、しまいには鬼の軍団を派遣され、大ピンチに。地上との境まで逃げてきたとき、そこに生えていたモモの木の実を3個とって、投げつけます。すると鬼たちは、たちまちぴゅ〜と黄泉の国へと退散していったのです。
助かったイザナギは「私を助けたように、地上の人々が苦しんでいるときに助けてやってほしい」といって、モモの実に「邪気を祓う偉大な神」という意味の名を授けました(そして物語は離婚問題へと発展しました…)。

モモを食べずに戦いに行った桃太郎たちの謎

モモ、すごい植物でしたね。今年もたくさんの可愛い笑顔に会えますように。
ところで、桃太郎がサル・キジ・犬と交渉したり戦いの前に食べたのは、モモではなくなんと「きびだんご」。いったいどうしてなんでしょう? 桃太郎がモモを食べたら鬼に金棒、なのに…。筆者が思うに、おそらくおばあさんとしては(上から流れてくる仙果よりも)ありったけの想いを込めて手づくりした食べ物を、命がけの旅に出ようとする息子に持たせてやりたかったのではないでしょうか。生まれ育った地でとれたキビのおだんごは桃太郎をなごませ、魔力をもったモモ以上に戦力を高めてくれたことでしょう。女性であるおばあさんのモモパワーも注入されていたかもしれませんね!
<参考文献>
『植物と行事』湯浅浩文(朝日選書)
『蝶々はなぜ菜の葉にとまるのか』稲垣栄洋(草思社)
『暦の百科事典』暦の会 編(新人物往来社)

続きを読む

この記事にコメントをする

TwitterでAERA dot.をフォロー

@dot_asahi_pubさんをフォロー

FacebookでAERA dot.の記事をチェック