気温自体は低くてもだんだん日脚が伸び、沈丁花や梅がかおりたち、春めいてきましたね。2月28日より、七十二候・雨水の末候「草木萠動(そうもくめばえいずる)」。文字通り、草木が萌え出てくる頃、という意味。この時期、疎水や川、沼などの水べりには銀白色のファーのような光沢をしたネコヤナギの花穂が陽光にきらめきます。ネコヤナギばかりではありません。本家本元のたちも、一年でもっともざわめき浮きたつ季節です。

どうして?「光の春」に頻発する悩ましい猫たちの行動

春の猫 猫の恋 恋猫……季語にもなっているこれらの言葉があるとおり、早春は猫たちにとっては恋の季節。というのも実は猫の発情と昼の時間は関連があり、日中の時間が12~14時間ほどになると発情が誘発される光周期の季節性なのです。ですから冬の間は休止していた野良猫たちの繁殖が、春の訪れとともに再開されるというわけ。厳しい冬に子育てすることを避けるために獲得した仕組みだともいわれています。まるで野鳥のようで、猫のもつ野性味のひとつかもしれません。
発情期のピーク時にメス猫は独特の姿勢をさかんにとるようになります。両前足を畳み胸を地面につけ、お尻を高く持ち上げます。そしてしっぽを左右のどちらかにねじるようにして、後肢で足踏みしながら体を揺らします。これをロードーシス(lordosis)といいます。また、飼い主や他の猫に体をこすり付けたり、床で何度も寝返りをうって体をくねらせるローリングといわれる行動を取ります。このとき、脂肪をふくんだ独特の体液を分泌し、外ではこのこすりつけたにおいをたどってオスがメスの発情を知る道しるべとなります。発情期のメスは、オスのマウンティング(メスに後ろからおおいかぶさる)やネックグリップ(オスがメスの首筋を咬んで動けなくすること)を誘発し、受け入れる傾向も見られます。
こうしたさまざまな発情期行動は、交尾があった場合24時間以内にぱたりと止みますが、交尾がない場合は、5~10日間継続します。そしてその間、抑揚のない遠吠えのような響く大声で、オスを呼びます。聞きつけたオスは同じような声で呼応します。普段は平和な猫たちが、メスをめぐって激しい喧嘩をしたり、威嚇をしあう大声も、風物詩の一つともいえるのでしょうが、これらが近年では騒音トラブルになったり、猫が嫌いな人には不気味な声にも聞こえるようですね。
あまり鳴いて石になるなよ猫の恋(小林一茶)
寝て起きて大欠伸して猫の恋 (同)

猫の毛色に見る、人との共存の歴史

こうして春先の発情期に交尾をすると、やがて数ヵ月後には新しい子猫たちが生まれてきます。猫には周期排卵がなく、交尾の刺激により排卵しますから、最初の交尾から発情が収まるまでの間に再度何匹かの別のオスと交尾をした場合、父親の異なる子猫が、兄弟として一緒に生まれてきたりもします。そこで生まれてくる子猫の毛色もバリエーションに富んでいることが多く、いろんな種類の子猫たちが母猫に連れられて歩いている姿をよく見るのではないでしょうか。
猫の先祖はリビアヤマネコといわれていますが、当然ながらアルビノなどの色素変異がない限り、山猫の毛色は統一されています。ライオンやヒョウ、トラなどと同様、その種の毛色は種そのものの毛色です。家猫にこのようなバリエーションがあるのは、何千年もの人間との共存、ペット化により自然では淘汰されてしまうような毛色が生き延び、遺伝子を残し続けた結果です。現在では、猫の毛色を決定する遺伝子の特定なども進み、どのようにさまざまな種類の毛色や品種が形成されてきたかも徐々にわかってきているようです。
海外品種が捨てられて野良と交雑したり、家猫が野良と交尾したりすることで、野良猫たちもびっくりするほどきれいな毛並みや変わった毛色を見かけることも多くなりました。さらに、毛色によって性格や性質の傾向があるらしく、それがまた可愛らしくもあります。猫たちの毛色のバリエーションこそ、彼らが野生動物とは異なり人間と長い期間共存してきた歴史を物語っています。野良猫を駆除したら野ねずみが大繁殖してしまったという例があったり、イチゴハウスを荒らすネズミやモグラを捕獲したり、また多くの観光地が猫によって活性化したりと、野良猫が役に立つこともよく聞きます。共存する方法を考えることは、きっと可能なはずだと思います。

これからは日に日に暖かくなり、いてつく夜に震えていた猫たちにとってもぽかぽかして過ごしやすい季節となります。見ているだけで癒されるような、ほっこりのびのびとした姿を、あちこちで見ることができるのではないでしょうか。