ギョギョギョー!冬の間の魚たちのしのぎ・七十二侯「魚上氷(うおこおりをいずる)」 〈tenki.jp〉|AERA dot. (アエラドット)

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ギョギョギョー!冬の間の魚たちのしのぎ・七十二侯「魚上氷(うおこおりをいずる)」

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2月13日より、立春の末候「魚上氷(うおこおりをいずる)」となります。春の日差しに水がぬるみ、冬の間結氷した水の中に閉じ込められていた魚たちが、そこから脱して躍り出る、躍動的な情景を想像させます。でも、あらためて考えてみると魚たちは冬の間、寒冷地や山地はもちろん、平地や暖地でも夜間には池や川の水面が凍りつく、氷点下前後の環境の中で過ごしていたわけです。人間だったらとっくに凍死する環境で、魚たちはなぜ平気なのでしょう。

君たちどこでどうしてた?淡水魚たちの冬越しいろいろ

春になれば すがこもとけて どじょっこだの ふなっこだの 夜が明けたと 思うべな
(どじょっこ、ふなっこ/作詞 豊口清志 作曲 岡本敏明)
「すがこ」とは氷のこと。
冬、水が凍りつくような季節となっても、池や水路の鯉や金魚は氷結していない水の下のほうでゆらゆらと漂っているのが見られます。冷たい水の中の生活に適応した動物である魚は、実は0℃になっても凍らないのです。さらに淡水の場合、4℃の水がもっとも比重が重く、そのため下の水は0℃以上を保っていますから、一応余裕の水温でもあるのです。趣味釣りで人気の高いヘラ鮒は寒い冬の間、深場でジッと越冬しています。そして2月下旬から3月ごろ、水温が温かくなるとともに水温上昇の早い南向きの浅場を、エサを求めて回遊するようになります。この行動を「巣離れ」と言いますが、これなどはまさに歳時記通り。
とはいえ、コイもフナも、冬の間は極限まで代謝活動を落とし、食事もほとんどせずにすごします。冬季モード、つまり冬眠状態であるといえます。氷が溶けて暖かくなる時期はお目覚めモード、童謡の「夜が明けた」という表現は、魚たちにとってはぴったりの感覚かもしれません。
他の淡水魚たちも同様。ナマズは、水の深い安定した場所で、ときに藻にくるまるようにして休眠。メダカは、水域の底土と流木や草の根の間に小さな体で入り込み、冬を過ごします。
一方、ドジョウやアメリカザリガニのように泥の中に潜って冬眠する種も。ボラは冬には白い脂肪質の膜で眼を覆い、動きが鈍くなって、一種の休眠状態に入ります。
ヤマメやイワナなどの川の上流域の5℃ほどの冷水を好む魚たちも、真冬には川を下ったり流れのゆるい水底で、活動を止めて冬越しするようです。
なぞの多いウナギは、今まで冬の間は河口をぬけて海に下ってすごすのでは、と考えられていましたが、静岡県水産技術研究所がICチップによる追跡調査をしたところ、同一河川の下流域の砂礫などで越冬していることが確認され、ウナギが自分の生まれ育った河川に愛着をもって暮らしていることがわかりました。なんだかいじらしいですね。

南極の海でも凍らないつわものには赤い血潮が流れていなかった

海の場合は、広くて淡水よりもましなように思われますが、実は寒冷期は淡水よりもより厳しいとも言えます。海水は氷点降下により真水より凍結温度が低く−1.8℃程。つまり海水が凍り流氷となるほどの海面下では、淡水よりも冷たい環境となります。けれども、実際にはそうした高緯度の寒い海にも多くの魚はぴんぴんして泳いでいます。海水魚の血液の氷点は−0.8~0.9℃程で、海面が氷結する海域では理屈上身体が凍結してしまうはずなのにもかかわらずです。それを可能にしているのが魚の血液中に存在する不凍タンパク質。生物の細胞は、凍結して水分が粗大な結晶となることで組織が損傷し、また融解時に浸透圧で細胞壁が破れてしまいます。冷凍した野菜や肉を解凍するとぐずぐずになり水が出る、あの状態です。こうなってしまうと生体は維持できないため、生物は死んでしまうのです。不凍たんぱく質は、細胞の水分が粗大に凍結結晶化することを妨げる働きをします。北極海や南極海に生息する魚類からは、いくつかの種類の不凍糖タンパク質が発見されています。このため、氷点下の海でも凍結しないわけです。
もちろん、健康食品でおなじみのDHA、青魚に多く含まれる不飽和脂肪酸は、冷たい海の中でも脂肪が固形化しないよう、魚の脂肪は陸生動物の脂肪よりも融点が低くなっていることも魚が寒さ冷たさに強い理由のひとつ。
そんな中でもとびきり寒さに強いのが極地に住む魚たち。南極では、水温が-3℃に達することもありますが、極寒の氷の下で生きている魚の一種がコオリウオ(Channichthyidae)です。コオリウオの仲間は16種ほどが知られており、そのうちの13種が南極暮らし。南極周辺の水深5メートル程度の浅瀬から深海域に棲んでいます。
コオリウオは脊椎動物で唯一、血色素ヘモグロビン(赤血球)をもたないのです。コオリウオが赤血球を欠くのは低い代謝活動の中で血液がどろどろになることを防止するためだと思われていましたが、どうやら違うようで、カレイ、アンコウなどの底生魚(ていせいぎょ)と同祖をもつコオリウオはもともと不活発な種で、何らかの突然変異で赤血球を失ったため、酸素に富みプランクトンの栄養が豊富で、コオリウオのえさとなる小魚が多く、なおかつ環境が安定していて、代謝を低く維持できる南極の海がコオリウオにとっては好都合だった、ということのようです。水族館では、血液が無色透明なため、傷を負っていても気がつきにくく、飼育に難しい種なのだとか。
赤い血を欲してさまよう吸血鬼も、寒い南極の海でなら平和に生きていけたりするのかも?

ただし暖かい海には寒いと気絶するへなちょこも!

ところで「魚上氷」という表現、違和感がなくもありません。ともすると氷の上に魚が這い出てくるホラーっぽい映像もうかんできます。この歳時記は、周、もしくは秦代中国の時代に成立したといわれる呂氏春秋(りょししゅんじゅう)をもとにして前漢の時代に成立した「禮記(らいき)月令(がつりょう)」書中・孟春之月の 「東風解凍 蟄蟲始振 魚上冰 獺祭魚 鴻鴈來」(東風凍を解き 蟄虫始めてうごき 魚冰(うをこほり)に上り 獺(だつ)魚を祭り 鴻雁(こうがん)来たる)の記述に由来します。「魚上氷」以外にも七十二侯ではおなじみの歳時記が並んでいますね。七十二侯も、もとはこうした古典に由来します。
「魚上氷」は、「魚が氷の上に這い出てくる」という意味合いではなく、薄氷を飲み込む暖かい水とともに魚が浮き上がってくるダイナミックな季節の交替のさまをあらわしたものでしょう。
実際暖かい海では、氷ではありませんが寒さに弱い暖帯の魚が思いがけない海水温の低下に驚いて、海岸に飛び出て打ち上げられ、仮死状態になる現象が見られます。沖縄では、コノシロの一種のリュウキュウドロクイやボラの一種のタージックヮー、スズメダイやウツボなどの浅瀬のさんご礁に暮らす魚たちが、時に訪れる寒波で仮死状態になって大量に波打ち際に打ち上げられる現象が起き、そんな時には気絶から目覚める前に近隣の住民たちは魚を拾いにかけつけるのだとか。魚にとっては笑い事ではありませんが、南国の生き物らしいとぼけた生態がほほえましいですね。
日中はめっきり日差しも暖かくなりましたが、夜間はまだまだ水面は凍りつき、霜が立つ氷点下になる気温が続きます。気を緩めずに春を迎えましょう。

寒波、最低気温更新 浅瀬で魚が凍死"2005年3月7日"
環境省・二次的自然を主な生息環境とする淡水魚保全のための提言
禮記 月令


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