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七十二候<雉始雊(きじはじめてなく)>。キジは国鳥って……ご存じでしたか?

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(更新 2017/1/15 11:00)

嵐を呼ぶぜ〜「ホロ打ち」だぜ〜

嵐を呼ぶぜ〜「ホロ打ち」だぜ〜

こちらは準優勝のヤマドリさん(オス)

こちらは準優勝のヤマドリさん(オス)

広げて見せながらプロポーズ

広げて見せながらプロポーズ

「目立たないほうが安全ね」

「目立たないほうが安全ね」

カラーもニッポニア・ニッポン的なトキさん(選外なんて)

カラーもニッポニア・ニッポン的なトキさん(選外なんて)

明けまして、トリ年おめでとうございます! 突然ですが、日本の国鳥はキジです。「えっツルじゃないの?」「トキだとばかり」と思った方もいらっしゃるのでは。国鳥がキジに決定した理由とは? そして今年も、キジが盛んに鳴く季節がやってきます。オスはただでさえ派手な外見なのに、小高い土の上にあがり「ケーンッ!ケーンッ!」と大声で叫んだり「ドドドド」とドラムロールみたいに激しく羽ばたいたりするため、すぐ人にみつかって撃たれてしまうことでも有名です。そんなに目立って、いったい何をしようとしているのでしょうか?

身も心も。いろんな意味で人に親しまれて国鳥に!

日本らしいトリ…どんな鳥類が思い浮かぶでしょう。戦後間もない昭和22(1947)年、日本鳥学会の多数決により圧倒的支持を得て国鳥に決まったのは、「キジ」でした。
その最大の理由は「日本固有の鳥である」こと! 外国に渡らずいつも日本で暮らしている、という意味も含まれます。たとえば、民話『鶴の恩返し』でおなじみ 日本情緒あふれる肢体をもつ「タンチョウ」は、北海道の一部で通年暮らしているものの、もともとロシアや中国にも棲む渡り鳥だったので落選…さらに、かつてはあちこちにいたという「トキ」も、シーボルトによって『Nipponia nippon (ニッポニア・ニッポン)』とまで学名が付けられながら、当時すでに「日本で暮らしているのだろうか?」的な存在になっていたため選外に。じつは日本人にとって、トキは農作物を荒らす害鳥として駆除の対象となっており、食べるとわりと美味しいので乱獲されてきたというではありませんか。
そこで最終選考に残ったのが「キジ」と「ヤマドリ」。どちらもキジ目キジ科で、本州・四国・九州で一年中姿を見ることができるといいます。キジといえば『ももたろう』と鬼退治した功績で老若男女に有名ですね。一方、ヤマドリのオスはチャームポイントの尻尾が「長い」の代名詞として日本の風流シーンに用いられ、万葉集では柿本人麻呂に「あしびきの 山鳥の尾の しだり尾の ながながし夜を ひとりかも寝む」と歌われています。どちらかというと、ヤマドリの方が格調高いイメージが!?
じつは両者には、決定的な違いがありました。ヤマドリはその名のとおり、山の中に暮らす鳥。警戒心も強く、人はめったにその姿を見ることができません。ところがキジは、人家の近くの空き地などもウロウロ歩き回っているのです。薮の中に一応隠れてはいますが、いるのがバレバレ。とくにオスは外見もすごく派手なうえ「ケーンッ!ケーンッ!」と大声で鳴くので、すぐ見つかってしまいます。そんな「国民との距離の近さ」が認められたようです(ちなみにヤマドリは、大声を出しません)。
さらにキジは「トリ肉といえばキジ肉」として平安貴族にも愛好されていました。当時の国鳥の選定理由にはなんと「大きく、肉の味がよく、狩猟の対象に良い」という項目が…国鳥が狩猟の対象になっている国は日本だけ!ともいわれますが、これも食文化を重んじる国民性の表れなのかもしれません。キジは、存在まるごと親しまれ愛されていたのですね。ただし今は勝手に捕まえて食べることはできませんので、念のため。

雉も鳴かずば撃たれまいが選ばれもしない

キジが大声で鳴くのは、夫が奥さんや我が子を呼んでいるのだと、昔の歌には詠まれました。その呼び声が居場所を知らせ撃たれてしまうので、人の耳にはなおさら哀れに聞こえるのですね。けれど実際はその前段階、婚活にあたりライバルたちに自分のテリトリーを宣言しているのだそうです。農耕地や河川敷などで暮らし、草むらのちょっと小高いステージに上がっては、高らかに鳴くオス。さらに、胴に羽を打ちつけるように激しく振り「ドドドド」と大きな音をたてるのです。これを「ホロ(母衣)打ち」と呼び、ヤマドリも行います。山あいに響く羽音は、早春の風物詩にもなっているのだとか。母衣とは、武士の鎧の背に装着し、飛んでくる矢などを防御するマント状の武具。こんな勇ましさも日本男児には好まれたのです。
オスのキジは、体に巻き付いたヘビを断ち切ってしまうほど力が強いといいます。『ももたろう』での大活躍も、その闘争能力ならでは。繁殖期には顔がさらに真っ赤になり、赤いもの(他のオス)を見るとすぐさま戦闘態勢に入ります。強力な蹴爪でキック攻撃! 縄張りを死守!赤鬼も真っ青です。
雉(キジ)という漢字の「隹」は「とり」。矢のように飛んだり走ったりするトリ、という意味なのですね。じつはキジ、飛ぶのはあまり得意ではなく…ひゅんと飛んで、パタッと地面に落下します(まるで矢のように)。けれども、陸上を走って逃げる速さは矢のように高速!キジは「逃走」能力にも長けていたのです。
そう思うと、オスの鳴き声は警笛のようにも聞こえませんか(いったいどんな鳴き声?と思う方は、リンク先をどうぞ)。メスをみつけると、かなり時間をかけてまわりをウロウロし、頭を下げて羽を広げて見せ、アピールします。
余計なことを言ったために窮地に立たされる『雉も鳴かずば撃たれまい』という題名の民話は、いくつかの地方で伝えられています(なぜか「川の氾濫を防ぐために人柱にされる」という内容は共通のようです)。キジはそれでも、危険を顧みず鳴かずにはいられないのです。それはなぜかというと……。

一夫多妻ではなくじつは「乱婚」!?

さらに、キジが国鳥に選ばれたのは日本国民の理想的な家族の象徴に思えたから、という理由まで。「優美で力強いオスと、母性愛の強いメス、子育てにみられる家族の和」。じつはキジは(カモ類と同様に)母親だけで子育てするのですが、当時の日本ではそこは問題にならなかったようです。
長らくキジは一夫多妻だと考えられていました。ところが、1匹のオスが決まった複数のメスと結婚するわけではなく、自分のテリトリー内に入ってきたメスに片っ端からアピールして結婚していることがわかったそうです。さらにメスのほうは、何匹かで「イケイケ」と連れ立って自由に動きまわり、行った先々のオスとすぐ結婚してしまいます。お互いにひとり(1羽)と添い遂げようなんて全然思わない!そこでオスとしては、大声を上げてテリトリーを確保し、メスに来てもらえるようにする必要があったのですね。
派手派手しいオスとは真逆に、メスの羽は地味な色合いのまだら模様です。巣にうずくまったメスは、迷彩服のように草むらと一体化。キジは開けた地面に巣を作るため、とっても敵に狙われやすいのです。4月から7月にかけて6〜12個産む卵は、巣の中でいっぺんに孵ります。ママが卵を温めていたら、その間先に孵った子を守れませんものね。そしてヒナは、生まれるとすぐに自分で歩いてエサをとろうとします。キジが「乱婚」するのは、相手にこだわらずできるだけ多くの子孫を残すための作戦だったのですね。

旧一万円札、お持ちですか?

ところで、現在の一万円札の裏の図柄は、世界遺産にも登録された京都のお寺・平等院の鳳凰堂に飾られた「鳳凰像(国宝)」です。しかし、その前に発行されていた旧札の裏には、一対の日本キジが描かれていたのをご存じでしょうか。左がオス、右がメス。そのモデルは「上野動物園や神奈川県真鶴のサボテン公園でスケッチしたキジを、山階鳥類研究所のアドバイスを得て、より野生に近い姿にしたもの」なのだそうです。もしヘソクリの旧一万円札があったら、ちょっと裏返して仲睦まじい国鳥カップルを見てみてくださいね。そして春の足音が聞こえてきたら、意外と近いところで鳴いているキジの声にも耳をすませてみては。
<参考資料・サイト>
『キジのなかまたち』日本野鳥の会 編(あすなろ書房)
『鳥学の100年』井田徹治 著、日本鳥学会・山階鳥類研究所 協力(平凡社)
『日本銀行ホームページ』

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