関東地方ではまだ「凍てつく」というほどではありませんが、この時期としては強い寒気が北日本に流れ込み、日本海側を中心に雪が降っているエリアも多いようです。全国的にいよいよ本格的な冬が到来しますね。
そこで今回は、冬を舞台にしたドイツ歌曲の最高峰、シューベルトの「冬の旅」をご紹介します。

シューベルト(1797~1828)の墓/ウイーン
シューベルト(1797~1828)の墓/ウイーン

シューベルトのドイツ・リート

ドイツ語で歌われる歌曲を「リート」と呼びますが、シューベルト(1797~1828)は膨大な数のドイツ・リートを残しました。
その中でも有名なのは、いわゆる三大歌曲集「美しき水車小屋の娘」「白鳥の歌」、そしてもっとも人気が高いのがこの「冬の旅」です。
ヴィルヘルム・ミュラーの詩による曲は全部で24曲。
1827年、シューベルトが31歳の若さで亡くなる前年に作曲さました。
若者のさまよいと絶望をテーマにしており、若々しいあこがれの記憶とその挫折、失恋、孤独と寒さ、死への不安が歌われます。24曲中16曲が短調によって書かれています。

ほっとする「菩提樹」

代表的な曲を大ざっぱに紹介します。
一曲目は「おやすみ」。「私は見知らぬこの土地にやってきた」から始まります。若者は恋人と過ごした春の記憶を回想しながらも、荒野に旅立ったのです。
前半の聞き所は、何と言っても5曲目の「菩提樹」でしょう。この曲は長調で書かれていて、途中で転調するものの、優しいメロディーにほっとします。
──若者は菩提樹の前を通り過ぎます。かつて若者はこの木陰でいつも甘い思い出にふけっていました。遠くから聞こえるかのような木のざわめきは、まるでこう語りかけてくるようです。「ここにこそ、お前の安らぎがあるのに──」。
単独で歌われることも多く、自治体の公共放送の伴奏に使われることもあり、この曲は知っているという方も多いでしょう。
11曲めの「春の夢」も、長調の曲。いかにもドイツロマン主義的なモティーフで、甘い記憶が語られます。
後半に向かって、ますます凍えるような冷え冷えとした風景と心情が歌われます。
13曲めの「郵便馬車」。リズミカルな伴奏は、郵便を運んできたことを知らせる馬車のラッパの響きをもしています。若者は自問します。「恋人からのたよりなどないはずなのに、なぜ高鳴るのか、私の心よ!」

菩提樹の花
菩提樹の花

最後は「辻音楽師」。
若者は、街角に立つ誰一人聞こうとしない落ちぶれた音楽師に自分を重ねて、静かに曲集は閉じられます。
正直なところ、明るい気持ちにはなる楽しい音楽ではないのですが、ドイツ語の美しい響き、ピアノ伴奏と歌が織りなす、宗教的ともいっていいほどの感動が胸に迫ります。
今世紀最高のバリトン歌手・フィッシャー = ディースカウがブレンデルと組んだディスクがなんといっても緻密な表現と解釈の深さで一番だと思います。
冬が到来します。ぜひこの機会に、ドイツ・リートに触れてみてください。