紅葉の見頃が広がりつつあり、身近な景色も色鮮やかに目を楽しませてくれる美しい季節となりました。遠くの山々の変化はもちろん、ひらひらと舞い落ちる木の葉一枚にも味わいがあり、忙しい毎日でもほんの少し足を止めてみると深まる秋を感じられそうです。さて、そんな趣のあるこの季節にご紹介したいのは俳人小林一茶氏。彼こそまさに繊細な季節の移ろいを肌で感じ、小さな生き物に親しみを込めて詠んだ俳人。一茶氏の紡いだ言葉は、俳句に精通していなくともわかりやすく心に響く歌が多く、今なお多くの人に好まれる俳人です。また一茶氏の故郷長野県信濃町では、記念館を中心に今年も一茶忌俳句大会が行われ数多くの俳句が寄せられます。彼の生涯は決して平安なものではありませんでしたが、亡くなって190年の今もこうして語り継がれ詠み継がれ、地元の人々にも愛され続ける幸せな俳人とも言えるのではないでしょうか。今日11月19日は小林一茶氏の命日です。

一茶氏の俳句集は没後、他人の手によって発行された!?

ご存知でしょうか? 小林一茶氏の有名な俳句集は没後に出版されていることを。「一茶発句集」は没後2年、「おらが春」は没後25年経ってから世の中に出ています。しかも、本人が出版している書籍には俳句集がなく、旅の記録や父を看取ったことの記録や思いが綴られたものなどが主なものでした。そして、門下生は数多くあったであろう一茶氏ですが、その名を日本中に知らしめたのは同じ俳人である正岡子規氏であったとも言われています。一茶氏は中規模農家を営む家に生まれ、3歳で生母を亡くし、継母との不和によって15歳で江戸に奉公に出て、25歳で俳諧の世界に触れました。その後、故郷に戻るも俳句の修行のための旅に出るなどし、再び故郷に戻った時には父親の病が進行して看取り、晩年は遺産相続で親近者と争い、また晩婚であるにも関わらず妻や子供を早くに亡くしてしまうなど、心穏やかでない出来事が続きました。しかし、そのような人生の経験があったからこそ、人の心の襞に深く暖かく届く俳句が生まれたのではないでしょうか。時間を経てなお、同じ俳人によって彼の書いたものが改めて高評価を受けたことで、彼の作品の素朴でありながら洞察力がなければ書ききれない奥行き、またその素晴らしさを改めて思い知らされます。

故郷に愛され続け、一茶忌俳句大会続く

一茶氏の故郷にある一茶記念館は長野県信濃町に、現在も美しい自然を保つ豊かな環境に建てられています。そこでは一茶氏が書き残した多くの作品が見られるほか、毎年行われる俳句大会での作品や、小・中学生の可愛らしい作品まで、一茶氏を愛する人々によって育まれ続ける俳句の世界に触れることができます。中でも一茶忌に行われる俳句大会では去年、全国から4000を超える俳句が寄せられ密かに盛り上がりを見せています。今年も11月19日(土)にその審査発表が行われます。ご興味が湧いた方は来年の情報にご期待ください。一茶氏の俳句はその句が素晴らしいものとして広まり愛されているだけでなく、今を生きる人々を俳句の世界に優しく誘う力を持っているのだと感じずにはいられません。皆様もこの秋、一茶氏の世界に触れてオリジナルの俳句を詠んでみてはいかがでしょうか。