夏と秋が入れ替わる晩夏から初秋の詩歌 ── 台風、味覚、そして“かおれる”女性……

2016/08/28 16:30

今年は大きな台風が連続してやってきましたが、台風が過ぎるごとに少しずつ、秋が近づいてくるような感触があります。 秋はもの悲しい季節でもあり、読書、スポーツ、食欲、レジャーの季節。 夕暮れのふとした瞬間や、星空を見上げた時に吹き抜ける風に、「秋の気配」を感じるこの頃ですが、ひと足早く、初秋の詩歌をご紹介します。

夏の終わりの水辺、次第に木々は色づいていきます
夏の終わりの水辺、次第に木々は色づいていきます
台風、そして夏の終わり まずは、初秋の代名詞ともいえる台風の句から。 〈台風や四肢いきいきと雨合羽〉草間時彦 〈台風を迎ふ陸上総立ちして〉右城墓石 台風ほど強くなくとも、秋には西風が強めに吹くことがあります。涼しさを感じます。ちょうどこのころ、立春から数えて二百十日のころは強い風が吹き、稲の開花の時期に当たるので、農家には厄日とされています。 〈わが咽喉(のど)を離れゆく声秋風に〉野沢節子 〈秋風や書かねば言葉消えやすき〉野見山朱鳥 夏と秋が交錯する季節。夏を名残惜しむかのような、香港の詩人によるニガウリにささげた詩の一節を紹介します。 〈……陳(ひ)ねたニガウリよ/僕にはわかっている 君の心のなかには/柔軟で色鮮やかな事物もあるということを/……/僕は君の沈黙に敬服する/苦味は自分に残しておいて……〉也斯「ニガウリ讃歌」(池上貞子訳) 瓜はもちろん夏の野菜なのですが、ニガウリの独特の苦さは晩夏から秋にかけての気分にぴったり来るようです。瓜にはこんな句もあります。 〈瓜食めば老いし此の身ぞ思ほゆる〉相生垣瓜人
ゴーヤーなどと呼ばれるニガウリ
ゴーヤーなどと呼ばれるニガウリ
秋の味覚とこれから来る季節 秋はなんといっても実りの季節です。果物が美味しいですね。 〈柿食へば鐘が鳴るなり法隆寺〉正岡子規 〈星空へ店より林檎あふれをり〉橋本多佳子 〈中年や遠くみのれる夜の桃〉西東三鬼 〈梨かじる風の筋なる路傍の石〉細見綾子 秋の味覚のもう一つの代表格は秋刀魚です。 〈秋刀魚焼く匂の底に日は落ちぬ〉加藤楸邨 〈道玄坂さんま出る頃の夕空ぞ〉久米正雄 〈……さんま、さんま/さんま苦いか塩っぱいか。/そが上に熱き涙をしたたらせて/さんまを食うはいずこの里のならひぞや。……〉佐藤春夫「さんまの歌」
秋といえば、秋刀魚(サンマ)!
秋といえば、秋刀魚(サンマ)!
この季節、陽の光も日中はまだ強く、暑いことも多いのですが、午後になると少しずつおとろえてゆきます。日が落ちるのも早くなります。そんな、どことなく寂しい感覚が秋の詩歌には漂っています。〈秋あつし〉は残暑のこと。 〈電球(たま)のぬくもり恋ひつつをれば秋めきぬ〉角川源義 〈秋あつし鏡の奥にある素顔〉桂信子 〈ほろほろと生きる九月の甘納豆〉坪内稔典 〈秋の日は対岸の山に落ちゆきて一日(ひとひ)ははやし日月(ひつき)ははやし〉斎藤茂吉 最後にふしぎな味わいの歌を。 両方とも、独特の表現でこれから来る季節へのほのかな予感を感じさせる歌です。 「かおれる人」は美しい人、女性のことでしょうか。 〈橋として身をなげだしているものへ秋分の日の雲の影過ぐ〉渡辺松男 〈秋階段十五段目に腰を掛けかおれる人に会うべく〉大野道夫
秋の街角で……
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