8月19日は 「俳句」の日。季節のうつろいを575のリズムにのせて

2016/08/19 11:00

夏草や兵どもが夢の跡  松尾芭蕉 猛暑と大雨、極端な天候に慌ててしまう夏。快適に過ごすためにはあれこれと工夫がいりそうですね。 今日は8月19日、「俳句の日」です。 「えッ、 どうして?」と思われた方もいらっしゃるかも知れません。8、1、9と並べてみれば・・・おわかりですね。日にちの語呂合わせです。なかなかしゃれています。五、七、五のリズムに季節をのせた俳句は耳に心地よく響きます。芭蕉や一茶、正岡子規は誰もが知る国民的俳人です。ふだんは俳句に興味がなくても、今日だけちょっとのぞいてみませんか「俳句」の世界を!

松島やああ松島や松島や 田原坊
松島やああ松島や松島や 田原坊
「俳句」の起源、じつは「万葉集」まで遡ることができるんです。 日本の詩歌の歴史は和歌に始まります。 和歌とは「大和歌」のことで、中国から入ってきた「漢詩」にたいして日本で生まれた詩歌のことです。8世紀に編集された「古事記」や「日本書紀」に収録されてる古代歌謡は、まだ形は定まっていません。奈良時代の後期になると、五・七・五・七・七の31音の短歌が生まれました。 佐保川の水を堰き上げて植ゑし田を  尼 作る 刈る早飯は独りなるべし       家持 続く 前の五・七・五をひとりが投げかけると、後の七・七を別のひとりが受けるというスタイルが「万葉集」巻八に収められています。 歌で語りあう、なんて日本人は昔からなかなか文学的だったんですね。このようにして和歌は平安時代に貴族のたしなみとして全盛期を迎えます。 和歌の中から生まれたのが連歌です。これは奈良時代に短歌が生まれたのと同じ方法で、ひとりが五・七・五の「前句」(まえく)を作り、次に別の人が七・七の「付句」(つけく)を続けるという詩の形で、これを短連歌(たんれんが)と呼びました。 平安時代後期になりますと、宮中で前句と付句を何人かで次々と重ねていく長連歌が生まれます。これが室町時代になると庶民へと広がりをみせます。貴族たちは花鳥風月の自然を賛美する作風が主なものでしたが、庶民はユーモアやウィットに富んだものを好みました。それが俳諧連歌です。「俳諧」には滑稽、たわむれ、諧謔という意味があるんですね。大勢で歌を詠み合う俳諧連歌は庶民に大きく広がり「俳諧」として松永貞徳により規則が定められ、松尾芭蕉によって芸術として完成していきます。 「俳諧」は五・七・五と七・七を交互につなげていきますが、スタートの五・七・五の前句は発句(ほっく)といってとても大切にされるようになったのです。この発句には必ず四季折々の趣きのある物をいれるというルールがあり、季節を入れた発句だけを取り出し「俳諧連歌」とは別に「俳諧」と呼ばれるようになります。江戸時代には小林一や与謝蕪村といった今に名を残す俳人があらわれています。 その後明治時代になると正岡子規が登場して、この発句のみを独立させて「俳句」として独立させました。また表現方法でも子規は、当時のヨーロッパで流行していた自然主義の影響を受けて、面白いと思うものや興味のある物を描写する、写生という手法を俳句に取り入れます。新しい十七音の世界を提唱した子規に賛同する人は多く、その輪の広がりが愛好者を生み出し今日にいたっています。
松尾芭蕉
松尾芭蕉
俳句は季節をいれるのがお約束! 四季折々の変化に富んだ日本の気候はいつでも文学の宝庫! でもどんな言葉を選んだらその季節にふさわしいのかしら? と迷ってしまうこともありますね。そんな時に頼りになるのが「歳時記」や「季寄」です。季語といわれる俳句に必須な季節の言葉が集められた書物です。季節は春夏秋冬のほかに新年があります。お正月は日本人にとって一番大切な行事が行われる時、ひとつの季節として考えられていることがわかります。 なにより楽しみなお正月です。俳句を作って心新たに、という気分にもなりますね。 「歳時記」を開いてみると、どの季節にも「時候」や「天文」といった季節の移り変わりを感じる季語が入っているんです。 どんな季語があるのか、夏のところを見てみましょう。 炎天の色やあく迄深緑  正岡子規 「炎天」が季語です。猛暑といわれる夏の暑さは近年のことですが、子規も時代もやはり暑かったのが、この「炎天」で伝わってきますね。子規は燃え上がるような空の熱気を色でとらえたのですね。 兎も片耳垂るる大暑かな  芥川龍之介 いかめしい顔の写真で有名な明治の文豪は、暑さの中で兎の耳に注目していたなんてかわいいと思いませんか? 川の字をバラバラにする熱帯夜  よみ人知らず 思わず顔がほころんでしまいます。熱帯夜の寝苦しさもこんなほほえましい句になるとちょっと心が軽くなります。 8月も半ばになり台風がやってくるようになりましたので、台風の句も探してみました。 吹き飛ばす石は浅間の野分かな  松尾芭蕉 山川の水裂けて飛ぶ野分かな  村上鬼城 「野分」というのが今の台風のことで秋の季語になります。秋の暴風で「草木を分ける」という意味から名付けられたといいます。情趣のあることばですね。昔も今と台風の力には本当に怖れていたのがわかりますね。 いかがですか? ほんの少しですけれど、俳句って結構手軽に楽しめると思った方もいらっしゃるのではないでしょうか?
歳時記 春夏秋冬と新年
歳時記 春夏秋冬と新年
さて、俳句でも作ってみませんか? せっかくの「俳句の日」です。たったの17文字ですから、その中にひとつだけ季節のことばをいれて、自分の気持ちを表してみるのはいかがでしょう? 忙しい毎日の中ではそんな時間がない、とおっしゃる方は旅に出たときがオススメです。 松尾芭蕉が東北地方を旅したことは「奥の細道」で有名ですが、画家としても名を上げた与謝蕪村も約10年にわたって諸国遍歴をしています。小林一茶も人生の多くの時間を旅で過ごしています。 旅は日常を離れて心が解放される時です。自分の心の中に季節を感じて、ちょっとあたりを見廻して見るとあんがい素直に一句できるかもしれません。 何もかも散らかして発つ夏の旅  大高翔 こんな気持ちで心を開放して残りの夏を過ごしてみるのも、芸術の秋に向かって楽しいのではないでしょうか。 是非、一句に挑戦してみて下さいね。

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