猛暑日となる日も増えてきて、体感的にはもはや本格的な夏の感じ……。
日本気象協会発表から、「2016年夏休みの天気傾向」も発表され、これからいよいよ夏本番ですね。
一方で現代は、野菜や果物の「旬」をあまり感じられなくなってしまいました。
夏に旬を迎える果物と聞いて、皆さんは何を連想しますか?
おそらく、みかんと答える人はいないでしょうが、そんな話題の落語を紹介しましょう。

落語「千両みかん」の舞台は、冷蔵庫もない夏真っ盛りの江戸
落語「千両みかん」の舞台は、冷蔵庫もない夏真っ盛りの江戸

若旦那の病の原因

夏の盛りに大家(たいけ)の若旦那が原因不明の病で寝込んでしまいました。
医者は「何か思っていることがあり、それが胸につかえている。それを叶えてやれば病は治る」という見立て。
何も口にしようとしない若旦那はいよいよ衰弱していきます。
好きなお嬢さんでもいるのか……。
大事な跡取り息子を心配した旦那は、店の番頭に頼んで若旦那が何を思っているのかを聞き出させます。
若旦那は「どうせ叶わないこと」となかなか話そうとしません。
やっとのことで口を割った若旦那が言うには、なんと「みかんが食べたい……」でした。
番頭は食べ物くらいだったら、簡単なこと、と請け合ってしまいます。

江戸の大店(おおみせ)
江戸の大店(おおみせ)

夏の最中に、みかんがあった!

ところが、季節は真夏。
冷蔵庫などない時代ですから、冬が旬のみかんなどあるはずもありません。そのことに、やっと気がついた番頭。
みかんが見つからず、息子がもし亡くなってしまったら、「お前は主人殺しだ」と旦那に脅かされることは間違いありません。
そこで番頭は、夏の町にみかんを探しに出かけます。
フラフラになるまで探しても、みかんはみつかりません。
困り果てた番頭は、ようやく神田の果物問屋にたどり着きます。
すると、果物問屋は腐るのを承知で、上物のみかんを何箱も蔵の中に貯蔵していたのです。
箱を開けると、案の定みかんはみな腐っていますが、その中にひとつだけ傷んでいないみかんがあったのです。
ところが、そのみかんひとつの値段がなんと千両!
店の旦那に報告すると、「息子の命が千両で助かるなら安いこと」と、ふたつ返事でみかん一つに千両を払います。

江戸時代の千両は、今の価値で8万〜10万円
江戸時代の千両は、今の価値で8万〜10万円

千両のみかんなら……

若旦那にみかんを届けると、若旦那は10粒のうち、おいしそうに7粒を食べました。
「ご苦労だった。あとの3粒はお前のご両親とお前で分けておくれ」とみかん3粒をくれました。
「旦那は、若旦那のためにたったひとつのみかんに千両も出した。ひとつが千両なら、今この手にあるみかん3粒は300両だ。皮だけでも5両くらいはするか……。俺ももうすぐ、旦那の店から分家させてもらう。その時に100両くれるかどうか。えいままよ!」
番頭はみかん3粒を持って夜逃げしてしまいました。
(話の細部にはいくつかのバリエーションがあります)。
やはり食べ物は、体にもお財布にも旬がいいようです。おあとがよろしいようで。
── ちなみに、7〜8月に旬を迎える果物は、スイカ、ナシ、メロン、いじく、プルーン、ラズベリー、ブラックべリー、マンゴスティン、パッションフルーツ、マンゴーetc.と様々。
野菜は、枝豆、うり、オクラ、おかひじき、キャベツ、ししとう、ショウガ、冬瓜、ズッキーニ、トマト、とうもろこし、ニンニク、ナス、モロヘイヤ、レタス、みょうがetc.とバラエティ豊か。
今夜の夕食は、ぜひ旬のものを食べましょう!