聖なる虫のカマキリが悪役になったワケ・七十二候「蟷螂生(かまきりしょうず)」 〈tenki.jp〉|AERA dot. (アエラドット)

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聖なる虫のカマキリが悪役になったワケ・七十二候「蟷螂生(かまきりしょうず)」

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呼んだ?

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祈ってるように見えますか?

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のびのび~

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カマキリの卵鞘

カマキリの卵鞘

6月5日より、芒種の初候「「蟷螂生(かまきりしょうず/とうろうしょうず)」となりました。4~5月ごろに孵化したゴマ粒サイズのカマキリの幼虫が何度か脱皮して成長し、人目に触れるようになる頃です。カマキリに限らずさまざまな昆虫の出現率がぐっと増える季節でもありますが、代表的な害虫捕食の益虫で農事に大きく関わるカマキリが時候として選ばれたのでしょう。でもカマキリって益虫のわりにイメージが不遇。どうしてでしょうか。

孤高なる「祈る聖僧」からいつしか凶悪な殺し屋に

前脚の腿節から先の部分が太く変形してできた鎌を備えるカマキリ。英語名のMantisはギリシャ語のMantidaeに由来し、占い師、預言者、僧侶という意味です。両腕をあわせ折りたたむ姿勢と下半身をすっぽりと覆う長い翅が、長いローブを羽織り祈りを捧げる僧侶のように見える事から「Praying Mantis」(祈る僧侶、預言者)とも呼ばれます。古くからヨーロッパ南部では迷子の子供はカマキリが家の方向を指し示してくれるという言い伝えがあったり、イスラム教徒の人々はカマキリはいつもメッカの方向を向いて祈っていると考えていました。またアフリカでは、カーングという創造主がカマキリの姿で描かれました。
海外のカマキリには僧帽を思わせる長く上に伸びた突起のある種や、まるで法王のローブのように見える付属体が発達したニセハナマオウカマキリ(Idolomantis diabolica)という種もいたりして、信仰の対象としてあがめられていた、というのもうなづけます。
もちろん日本でも祈り虫とか拝み虫という呼び方もされ、上半身を起こし鎌をたたんだ姿に、やはり敬虔なものを感じていたようです。
しかし、いつの頃からかカマキリのイメージは悪役の代表選手に。
漫画や絵本、アニメなどにもキャラクター化されて登場するカマキリは、そのほとんどが憎まれ役・敵役で殺し屋だったり意地悪だったり。スズメバチと並んで昆虫界では不動の悪役ツートップ。
もちろん、先に脱皮して大きくなった者が小さい兄弟姉妹を食べてしまったりと共食いも平気な生まれながらの獰猛な肉食ぶり、成虫はときに自分より大きな生き物にも挑みかかり、獲物にしてしまう気の強さ、釣り目とぎざぎざの突いた大きな鎌形の前肢などは、どう見ても心優しさや正義の味方からは程遠いから仕方ないともいえますが・・・。
何より、カマキリといってすぐ思い浮かぶ有名な生態が、昆虫学者ファーブルが紹介した「メスは交尾をした後オスを食べてしまう」というもの。気が強く、夫を支配する恐ろしい妻のことを「カマキリ夫人」と呼んだりするように(元ネタは、「五月みどりのかまきり夫人の告白」という映画)。カマキリのイメージの転換は、ファーブルだったのかもしれません。

カマキリ夫人・その真偽と擬人化の功罪

昆虫学者のファーブルが紹介して有名になった交尾後にメスがオスを捕食する、という生態は、よほど人々のお気に召したのか、今や知らない人はないほど。そして「女は恐ろしい」「女性は強い」(いや、女性じゃなくてメスカマキリですから)とか、「所詮使い捨ての男の悲哀」「妻子のために犠牲になる父性愛」(ですから人じゃなくてオスカマキリです)などと、なぜかうれしそうに語られます。
けれども、実態はそれとはかなりかけ離れたものなのです。メスのカマキリは反復受精が可能で、何匹ものオスの精子を受けとることが出来ます。オスもまた、子孫繁栄のために多くのメスと交尾をする習性です。どちらも一発の交尾に勝負をかけているわけではありません。
カマキリの交尾の観察実験は狭い虫かごや水槽に入れて行なわれるので、逃げ場のないオスは捕食されてしまうことが多く、「カマキリのメスは交尾の後オスを食べて栄養にする」という流言が補強されましたが、後に自然に近い環境ではどうなるか、の実験が行なわれました。
ビニールハウスにオス、メス20匹ずつの繁殖期のカマキリを放し、三週間交尾行動を観察しました。その結果、交尾中に共食いされたオスは一匹のみだったそうです。そして、オスはそれぞれ一匹あたり平均二回以上の交尾を完遂させていたとか。つまり、交尾中もしくは交尾後にメスがオスを捕食することはまったくなくはないが、多くの人が思っているように頻繁に起きているわけでもないし、オスにとってもいちかばちか、というようなリスクの高い命がけのものでもない。またメスが子供の栄養のために進んでオスを食べるわけでもない、というのが事実のようです。
そもそも、交尾と同時に猛烈に飢餓に襲われて食欲旺盛になる、という話自体変です。栄養が必要になるのは体内で卵が育つ過程でのはず。カマキリは生まれながらに獰猛で大食であり、食べられるとなればどんな生き物も獲物にしてしまう、という本来の性質であるにすぎません。
ニシキヘビは繁殖期、オスがメスに交尾を挑み、拒絶されると腹いせにメスをかみ殺してしまうことがありますが、これをもって「ニシキヘビは亭主関白」なんて笑い話にはならないように、カマキリの生殖行動も、あまり擬人化しすぎて面白おかしい話にするのは、ちょっとカマキリたちにかわいそうな気がします。

カマキリの卵鞘(らんしょう)をもとにした気象予報をめぐる熱きファイト

さて、とはいえカマキリ好きの人はもしかしたらカマキリの気性にに似て熱い戦いを好むのかもしれません。カマキリの卵はご存知の通り、ウレタン質のかたまりでつつまれた卵鞘(らんしょう)を形作りますが、この卵鞘を産みつける位置により、その冬の積雪量がわかる、いやそんなことはない、という研究者同士のバトルが長らく繰り広げられています。
雪国では「カマキリが高いところに産卵すると大雪」という民間伝承があり、新潟県長岡市の酒井與喜夫氏は約50年にもわたってカマキリの卵鞘による冬の積雪深の予測を行い、一説では気象庁の長期予報より確度が高い、とか。2003年発行の酒井氏の著書「カマキリは大雪を知っていた」(農文協)において、雪が厚く積もりカマキリの卵鞘が深く埋もれてしまうと、その重みで呼吸が出来なくなり孵化できなくなる。そこでカマキリの親はあらかじめその冬の積雪を予想し、厚く積もるときは高い場所に、そうでもないときは低い位置に卵を産みつける。この位置から、積雪を予想できるのだ、という説を提唱。酒井氏は「カマキリが高いところに産卵すると大雪」が統計学的に有意であることを論文にまとめ、1997年に長岡技術科学大にから博士の学位を授与され、酒井氏の説はさまざまな書籍でも紹介されることになりました。
一方それをまっこうから否定したのが弘前大学名誉教授の昆虫学者・安藤喜一氏。安藤氏はカマキリの卵鞘を深い雪に埋もれた状態と同様にし観察を続け、そのほとんどが無事に孵化することを確認(「耐性の昆虫学」東海大学出版会2008年6月所中「オオカマキリの耐雪性」安藤喜一《57-67p》)。「そもそも雪国のカマキリの卵鞘は冬はほとんど雪に埋もれる。それでも問題なく孵化していることが判明した。酒井氏の説はデタラメのニセ科学」と一刀両断。両者は主張を一歩も譲らず、今に至っています。
真偽のほどはわかりませんが、カマキリに限らず、たとえばスズメバチの巣が低い位置に作られる夏は台風が多いとか、動物の行動を基にして天災を予測することは古くから行なわれていました。おそらく100%正しい予測とか法則とかいうものは存在しないでしょう。ただ自然に寄り添い、生物との関係性を大切にしていると、ときにいつもと違う振る舞いをする生物の様子に気づき、それが大きな天変地異の予測に役立つこともしばしばある、ということなのではないでしょうか。
かつて高度成長期の時代、自然界の弱肉強食の「掟」が強調された時代がありました。でも、野生の生き物たちは人間の都合や願望のために生きているわけではありません。擬人化や法則の強引な投影は、時に自然自体を見誤ることになる危険性があるかもしれません。
参照・上越タウンジャーナル「カマキリ博士の積雪予報は当たっていた!?」


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