復旧活動が続く九州エリアの空模様が気になるところですが、地震発生から今日で1カ月。
東日本大震災発生後に、金子みすゞの詩「こだまでしょうか」のフレーズがCMに使用され、2011年の新語・流行語大賞のトップ10に入賞したことを、皆さん覚えていますか?
そして、熊本地震発生後も、吹石一恵さんがナレーションをつとめる「やわらかいこころをもちましょう」をはじめ、ACジャパンのテレビCMの放映頻度が多くなりましたね。
── 1カ月が経過したこの機会に、災害後のCM放送について一緒に考えてみませんか。

1971年に設立された公益社団法人ACジャパン

〈セトモノとセトモノとぶつかりっこすると すぐこわれちゃう
どっちかやわらかければだいじょうぶ やわらかいこころをもちましょう〉
冒頭部分のみ引用した上記のフレーズは、吹石一恵さんがナレーションをつとめるACジャパンのTVCM(テレビコマーシャル)。熊本地震発生後によくテレビで流れていましたね。
様々なパターンのテレビ・ラジオCMを手がけるACジャパンは、メディアを介した公共広告により、啓発活動を行っている公益社団法人です。
30〜40代、さらに上の世代であれば、「公共広告機構」(前身の組織名)というと、「ああ、聞いたことある」と思われる方も多いでしょう。

会員は日本の名だたる企業

高度経済成長期の日本では、人々の生活水準が向上した一方、様々な社会問題も生じていました。
日本万国博覧会(大阪万博)開催を控えた1970年、「日本に蔓延するマナー違反をなんとか改善できないものか」と考えていた、当時サントリーの社長だった佐治敬三氏。
そんな折、広告を通して公共意識を高める活動を行っていた「広告協議会(Ad Council=アメリカAC)」の存在を知った佐治氏は、「広告は人を説得するための最も有効な手段」と考え、現・ACジャパンの前身となる関西公共広告機構を設立。
現在のACジャパンは、正会員数1064社、賛助会員数51社、個人会員数91名(2015年3月末時点 ACジャパンHPより)によって運営される民間団体であり、運営は会員による会費制で成り立っています。

災害発生後、なぜ公共CMが多くなる?

災害発生後にACジャパンのCMが多くなる最大の理由は、番組提供スポンサーの姿勢・意向とされます。
ご存じの通り、民間放送はCMの収入で成り立っており、番組のスポンサーをつとめる企業のCM枠はだいたい1カ月前に決定しています。
しかし、災害発生直後は被災者の支援・救出、行方不明者の捜索、そして、食糧・物資不足と供給の混乱、居住空間の確保……など、あらゆる面から困難を強いられるなか、政府、行政、メディア、民間が総じて緊迫状況に陥ります。
そうした状況下、アルコール、嗜好品、娯楽品等をはじめとするCMは企業のマイナスイメージにつながる可能性があり、さらに、災害直後は緊急特番などが組まれることも珍しくありません。
よって、予定されていた番組が放映されないとあれば、スポンサー企業のCMは流れませんし、番組が放映されたとしてもCMを自粛する企業もあります。
こうした理由によって生じたCM枠の「空白」を埋めるのが、日本経済の屋台骨といえる大企業が会員に名を連ねるACジャパンなのです。

CMを見るとつらい、不安になる……という声も

東日本大震災時に、同じフレーズのCMが繰り返し放映されたことが記憶に新しい今、今回ACジャパンのCMを見た多くの人から、
「あの時の閉塞的で、つらい思いがよみがってくる……」
「ACジャパンのCMはとてもよい内容だけど、あまりにCMの数が多くて逆に不安になる……」といった声があがっています。
こうしたことから自粛を選択した企業のCM枠を、すべて公共CMで埋めるのではなく、もっといい方法はあるのでは?」……といった意見が昨今ネット上で話題に。
それは例えば「企業側の自粛もうなずけるし、CSR活動を目的としたACジャパンのCMも意義はあるが、もっと創意工夫できるのでは?」といった声をはじめ、「災害直後はCMも被災地情報に充て、遠方に住む家族や親戚、被災者自身が入手したい情報をテロップ方式などで流せないか」、また、「日を追うごとに変化する物資に関する情報や、県別・地域別の情報、インフラ状況などを、CM枠で効率的に告知できるはず」といった多様な建設的意見も。
いずれにせよ、特定の時間に放送されるニュースや番組を見なくても、ほしい情報がタイムラグなくテレビCMの枠から入手できる情報管理の方法や、ボランティア情報、災害基金情報などの情報発信のあり方も、災害国ニッポンとして一考の余地があるかもしれません。
── 公共マナー、環境、親子の絆、自殺防止、いじめ……といった様々な社会問題をすくい取った、メッセージ性の高いCMを手がけるACジャパン。そのメッセージから多くを得られるのも事実でしょう。
しかしながら、災害発生後に設計される異常な量のスポット広告枠の弊害が取りざたされる今、プラス・マイナス両面からメディア、スポンサー企業、広告代理店といった関係各位が一体となり、再考するよい機会なのかもしれません。