一説では、江戸時代以前に船の積み荷に交じって日本に侵入した帰化動物だろうと考えられていますが、平安時代の書物「堤中納言物語(つつみちゅうなごんものがたり)」書中「蟲愛づる姫君」にも記載があることから、繁殖してから長い期間が経ち、日本の風土になじみ適応した在来種と言ってもさしつかえないでしょう。


人家など人の近くに通年好んで棲み、冬眠も人家の建物の隙間などで行ないます。
ところでヤモリとイモリの区別がつかない、という人がことのほか多いとか。名前自体が似ていて、サイズも同じくらい、調査によると半分以上の人はヤモリとイモリの区別がつかなかったり混同したりしているそうです。
でもこれは致し方ないことで、民俗学者南方熊楠によると、古来日本人はトカゲ、ヤモリ、イモリの区別をつけず、同一視していたのだといいます。これは日本だけではなく古代中国も同じだったようです。熊楠は中国で蜥蜴(トカゲ)とヤモリ(守宮)が混同され、さらにイモリを加えてこの三者はほとんど区別されていなかったと解釈しています。
かつては色町などではイモリの黒焼きが精力薬として珍重されていたそうですが、これも本来はヤモリだったのがいつしかイモリに代わってしまったと日本ではいわれていますが、ヤモリは少産ですし、あまり精力がつくとは思えないので、本来中国ではイモリだったのではないでしょうか。昔の人ですらそうなのですから、現代人がわからないのも無理はないかもしれませんね。
ヤモリはトカゲやヘビと同じ爬虫類で地上の外壁などにいる。イモリはカエルやサンショウウオ、ウーパールーパーと同じ両生類で池や泉などの水の中に棲む、と覚えていただければ、混同はしないと思います。

肌触りは求肥(ぎゅうひ)・庇護心をくすぐる最弱の野生動物・ヤモリはどうして絶滅しないのか

さてこのヤモリ、トカゲの近縁ですが、トカゲよりもずっと動きが遅く、歩き方はくねくねしていて頭も大きく、どんくさい印象を受けます。実際、捕まえようと思うと簡単に捕まえられますし、や鳥の格好の餌食にもなっています。筆者にとってはこのヤモリは猫と肩を並べるアイドル。見かけるとつかまえて手のひらで遊ばせるのですが、表皮のさわり心地はうろこがあるのですがなめらかですべすべしており、ちょうど和菓子の求肥(ぎゅうひ)のような感触。ヘビのようなぬめぬめした硬いうろこではありません。つかまえると時に指に噛み付くこともありますがちっとも痛くありません。細かい歯はありますが、鋭い牙などはないのです。以前は噛み付く姿がかわいいのでわざとかませてたりもしたのですが、人間の指をかませるとヤモリの顎のほうが骨折してしまう場合があると知り、噛み付かせないよう気をつけるようになりました。特徴的に広がって大きめな指にも、敵を傷つけるほどの爪は装備されていません。
このように攻撃力も防御力も弱い生き物は多くの場合大量に卵を産んで子孫を量産する戦略を取りますが、ヤモリの場合一年に2~3回、二つずつしか産卵せず、繁殖力もさほど優れてはいません。また、身を守るすべとしてつきものの毒もありません。こんなにあらゆる面で生き残り能力・戦略に欠けている動物は他に見たことがありません。あまりに無防備で、思わず守ってやりたい気持ちにかられます。まさに最弱の名にふさわしい生き物と言えます。獲物である虫を捕まえることすら偶然以外におぼつかないのではないか、と心配になってしまいます。
筆者が観察していると、まるで虫がヤモリに引き寄せられるように食べられていきました。一体どういう仕掛けなのか、何かしら誘引する仕掛けがあるのかもしれません。
実はこのヤモリ、近年ようやく研究が進んできましたが、さまざまな血用能力の持ち主であるとわかってきています。虫をおびき寄せる方法についても、いずれ解明されることがあるかもしれません。