誰もが知るツバメの、誰も知らない名前の由来って? 七十二候「玄鳥至(げんちょういたる)」 〈tenki.jp〉|AERA dot. (アエラドット)

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誰もが知るツバメの、誰も知らない名前の由来って? 七十二候「玄鳥至(げんちょういたる)」

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ツバメが海を渡ってやってくる季節です

ツバメが海を渡ってやってくる季節です

空中で虫を食べてくれる益鳥です

空中で虫を食べてくれる益鳥です

ツバでクラを作るからツバメ?

ツバでクラを作るからツバメ?

まるで歌っているみたい

まるで歌っているみたい

4月5日より「清明」の初候・「玄鳥(げんちょういたる)」。玄鳥とはツバメの別名。陽気も暖かくなり、南の台湾やフィリピン、マレー半島、インドネシアで越冬していたツバメが、再び飛来する、と言う意味。鳥には詳しくなくてもその飛びかわす姿を見て、ツバメだとわからない人はいませんよね。スズメやカラス、ハトなどの留鳥とちがい、ツバメは典型的な渡り鳥で一年の半分近くは日本にいないのです。なのにこれほどメジャーなのはすごいこと。きっと農耕民である日本人にもっとも愛されてきた野鳥だからではないでしょうか。

ツバクロ? ツバクラメ? ツバクロウ? 異名はこんなにあった

ツバメが人家の軒下などに巣をかけるのは、よく知られているとおりヘビやカラス、猛禽などに雛が襲われにくくするための知恵。だから人けのない空き家などではなく、人がよく出入りするにぎやかな場所の軒下や梁上などに、泥と枯草を唾液で固めて巣をかけます。動物の糞などを過敏に嫌うようになった清潔志向の今でこそ、ツバメの巣を迷惑がって崩してしまう人も多くなったようですが、「ツバメが巣をかけた店は繁盛する」「家にツバメが巣をかけると金運が上がる」「家にツバメが巣を作った年に子宝に恵まれた」などのラッキーや幸福が舞い込む古くからのジンクスがありますよね。
実際、特に農家などにとっては、ツバメは農作物に食害をもたらす昆虫を空中で捕らえて盛んに食べてくれるこの上ない益鳥であり、作物を守ってくれる福の神として大事にしてきたわけで、格段に大切にされ人間に庇護されてきた特別な野鳥でした。かつてはツバメは、常世の国(海の向こうにあるこの世ならぬ楽園・穀物の神であるスクナヒコナノカミが渡ったとされる神仙の国)から来た使いであると信じられていました。
そんなツバメですから、親しみをこめた名前も数多く、日本の各地にさまざまな呼称が存在します。
筆者の叔母はツバメのことを「ツバクロ」と呼んでいて、「どうしてツバクロっていうんだろうなー」と子供のころ面白く思っていたものでした。ある年齢から上の世代になるほど、ツバメのことをツバクロと呼ぶ人は多くなるようです。プロ野球のヤクルトスワローズのマスコットは「ツバ九郎」ですが、これは野球のメンバーのナインに「ツバクロ」をかけたもの。
他にも、玄鳥、乙鳥(イツチョウ)、つはひ、方言としては、「つばぐら」「すんばぐら」「つんばくら」(東北地方)、「ひいご」「ひいごさん」「ひゅーご」(近畿・中国地方)、「つばころ」「つばさ」(広島・福岡)、「つばんじよ」(熊本)、「すばくろ」(千葉)、「つばきら」(茨城)、「つんばくろ」(富山)、「つばくろう」「つば」(徳島)、「まんたらげし」(鹿児島)「またがらし」「がらしまた」(徳之島)「またがらす」(奄美)、「かーらまつたらー」(沖縄島)などなど、枚挙に暇がありません。
こうしてみると、「ひいご」とか「まんたらげし」「乙鳥」などは別として、多くに共通するのは「つば」と「くろ(くら・玄)」ですよね。

諸説あり! ツバクロって結局どういう意味?

古語では「竹取物語」に
「石上中納言には、『燕(つばくらめ)のもたる子安貝一つとりて給へ。』といふ。」
とあり、古くは「ツバクラメ」と称していたようです。これは一説では「ツバ」(光沢のあるさま)「クラ」(黒)「メ」(スズメ・カモメなど群れなす小鳥につく接尾語)で、「つやつやした黒い小鳥」ということだとか。
でもそうするとカラスも「ツバクラス」(「ス」も鳥につく接尾語で、カラス、ウグイス、ホトトギス、またキジの古語のキギスなどがそうです)とどうしていわれないのか、などの疑問が残り、ちょっと違うんじゃないかと言う気がします。
もっとも「メ」に関しては確かに小鳥の群れを指す接尾語で、シジュウカラもかつては「シジュウカラメ」と呼んでいたようですし、上代万葉の時代の古いあずまことばの原型がもっともよく残存しているといわれる八丈島の方言では、メジロは「メンジメ」、キジバトは「ショートメ」、鶏は「ニャットリメ」、ヒヨドリは「ピャーピャーメ」など、小鳥の多くに「メ」がつき、かつては多くの小鳥は「~メ」という名で呼ばれていたことは間違いありません(八丈では小鳥だけではなく、昆虫や小動物や家畜にも「め」をつけます。また栃木や茨城などの一部の方言では、同じように動物や虫に「め」の接尾語がつく地方があります)。
八丈ではツバメを「ちゆーばくら」と言い、「メ」がつかないようなのですが。この「ちゆーば」は「つば」と同じですね。
たとえば白鳥とかキツツキとか、ずはりそのもののわかりやすい名前ならともかく、語源が古く、またもとの発音から変化している名前の場合、何が本当にその名前の語源なのか、ほとんどわからないといっていいと思います。「さくら」という言葉も「咲く」に接尾語「ら」がついた、というシンプルな説と、「さ」は耕作や神霊を意味し「くら」は「座」を意味して「神の宿る座」という意味だ、なんていうように分解した説もあります。あまりに腑分けして考えると、かえって深読みやごつけの余地が大きくなり、意味不明になっていきがちです。
ツバメの鳴き声を聞いていると、「ツパッ、ツパッ」とか「パツパツパツ・・・」というように嘴をクラックさせる音をよく立てています。このツパツパという音が「ツパメ」となったのではないか、という説はなかなか説得力があります。スズメにしろヒヨドリにしろ、鳥の場合鳴き声から付けられる場合も多いからです。ツバメ、と言う呼び名がツバクラ(ツバクロ)よりも古いのなら、これで間違いないだろう、といえそうなところです。
一方『物類称呼』(江戸時代後期の全国方言辞書)には、「又つばくらめとは、土くらひの和訓也と、篤信翁の説也」とあり、つまり「ツバクラ」とは「土を食らう」から来ている、ということ。これも有力です。何と言っても、ツバメの一番印象的な生態は、泥と藁を「唾」で固めた独特の巣作りですから。
筆者の私見を述べますと、「ツバ」は唾のことで、「クラ」は「蔵/倉」だと考えています。日本人は古くから住まいの土壁を水と土と藁とを混ぜて作りました。人と同じように住まいを作るツバメの姿をみて、驚異と親愛を強く感じたにちがいない、と思うのです。「あの鳥も唾で蔵を作っている」と。忘れてはならないのは、ツバメが常世の国から来ている、という信仰がかつてはあった、ということです。渡り鳥は神の使いである、と信じていた人々は、人間と同じ方法で巣を作るツバメを、まさに神霊が宿ってやって来たと感じたのではないでしょうか。だからこそ、ツバメの巣が富をもたらすと信じられてきたし、その作る巣は財物・宝物を蓄える「蔵」に喩えられたのでは。

ひいご、まんたらげしなどの別名は?

さて、ツバクロ群とは明らかに異なる「ひいご」「ひゅーご」などの名前もありました。
常世の国は少彦名命が渡っていったとされる国。そして少彦名は、海のかなたから流れ着き福をもたらすという蛭子(えびす・ひるこ)の福神伝承とも習合しています。岡山県総社市に「ひいご池」という湿地があり、そこにはツバメが入水したという伝承があるそうです。はっきりしたことはわかりませんが、少彦名が常世の国に渡ったといわれる中国地方の方言である、ということからも、「ひるこ」が変化したものではないのか、と推測できないでしょうか。
「まんたらげし」「がらしまた」「またがらし」「またがらす」は、同じ語源の変化でしょう。「マタ」というのは「股」のことで、ツバメの特徴的な二股の尾翼をあらわしているのではないでしょうか。「乙鳥」の「乙」も、尾羽を乙という形に見立てた、という説があります。マタといえば「股旅」という言葉がありますが、雁と並んで鮮やかな渡りが印象的なツバメは、旅から旅への放浪のイメージとも結びつきます。
♪旅のつばくろ 寂しかないか
おれもさみしい サーカスぐらし
とんぼがえりで 今年もくれて
知らぬ他国の 花を見た
(「サーカスの唄」作詞:西條八十 作曲:古賀政男)
標識観察によると、日本列島で春から秋にかけて生活したツバメたちは、冬の訪れを前に南の越冬地に渡っていきますが、もっとも多い越冬地はフィリピン。一方、同じ東南アジアでもタイにはまったく渡っていないようです(山階鳥類研究所)。風の流れのせいなのか、日本列島と同じ島に風土を好むのかは不明ですが、これからは南国の「他国の花」を見てきたツバメたちの、けなげな子育てを楽しめる季節です。


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