白酒は江戸時代に誕生しました。中期には商店のほか「振売(ふりうり)」が天秤棒を担いで売りにきたといいます。後期になると、大きな酒店で買うのが主流に。なかでも鎌倉河岸(現在の千代田区内神田)『豊島屋』の白酒は江戸っ子の口に合い、「山なれば富士、白酒なれば豊島屋」と詠われるほどの超人気店だったようです。初代店主の夢枕に 紙びなが現れて、白酒の製法を伝授したのだとか。

ひなまつりを前にした2月25日には、白酒だけを大売り出し。たくさんの人がどっと押しかけ、店は大混雑!死者が続出!! そのため店の前に矢来(やらい)を組んで、入り口で切手を販売し奥で白酒と引き換えるという方式(いわゆるチケット制ですね)にしたそうです。さらに八丁堀の同心が出向いて取り締まりにあたりますが、それでもケガ人や気分の悪くなる人が出る恐れがあり、医者を待機させたといいます。どんな味なのか興味のある方は、現在ネット販売もされているようなのでお試しになってみては。

向かって右側にいるこのお方。じつは赤いお顔の「左大臣」なのです
向かって右側にいるこのお方。じつは赤いお顔の「左大臣」なのです

●甘酒は2種類。春を浮かべると楽しいですね

甘酒とは、水分を多めに柔らかく炊いたご飯やお粥に米麹を混ぜ、発酵させたもの。ひと晩でできるので「一夜酒(ひとよざけ)」とも呼ばれました。アルコール分1%前後で「酒」には該当せず、家庭で作ってもOKな飲み物です。
昔は水車や足踏みでついたモチ米を粥状にやわらかく炊き、麹を混ぜ、甘みを加えて6〜7時間トロ火で温めて作られました。精白した米でないためタンパク質が残り、それを麹菌が分解することで ブドウ糖とアミノ酸の固まりのような栄養ドリンクに! 甘酒が「飲む点滴」といわれる所以ですね。

甘酒は、神話の時代から自家製造されて飲まれてきたといわれています。行商で売られるようになったのは室町時代から。現在は夏の季語ですが、江戸時代前期の俳諧書では冬の季語であり、その後江戸では季節を問わず売られるようになりました。
また、酒の絞りかすである酒粕に砂糖や水・生姜などを加えて作ったものも「甘酒」と呼ばれていますね。 体が芯から温まり美容効果も高いうえ 蜂蜜やミルクを入れたり冷やして飲んでも美味しいので、今ちょっとしたブームです。こちらはアルコール分を含んでいるので、飲みすぎにはご注意を。

「桃花酒」「白酒」「甘酒」。どれも もともと、ひなまつり1日だけに限らず楽しまれてきた滋養ある飲み物でした。3月は、ドリンクに桃の花びらを浮かべて飲むのも楽しいですね。白酒・甘酒、白い乳酸菌飲料や淡い色のジュース、透明な炭酸飲料、白ワインや日本酒・・・春のおとずれに、ピンクのエネルギーをチャージしてみませんか。

とろとろ甘酒煮てます
とろとろ甘酒煮てます

<参考>
『浮世絵で読む、江戸の四季とならわし』赤坂治績(NHK出版新書)
『イラストでわかるおうち歳時記』三浦康子・監修(朝日新聞出版)