なぜか冬はビッグスターの訃報が目立つ気がします。
新年早々イギリスのロックスター、デビッド・ボウイが最新アルバム「ブラックスター」を遺書代わりに、2016年1月10日、69歳でその生涯を閉じました。
一般的には世界中で大ブレークした1980年代以降の彼を知っている人のほうが多いかもしれませんが、1970年代のボウイは音楽だけではなく、サブカルチャー全般に大きな影響を与える稀有なカルト・ヒーローでした。
前半期の彼の軌跡を、その死を悼みながら振り返ってみましょう。

シングルヒットした「スパース・オディティ」の発売年は1969年。この年の7月、アポロ11号が月面に着陸(画像はイメージ)
シングルヒットした「スパース・オディティ」の発売年は1969年。この年の7月、アポロ11号が月面に着陸(画像はイメージ)

変化し続けた前半期のボウイ

ボウイは1947年ロンドン生まれ。
ロックスターとしてブレークしたのは1969年ですが、これ以降1980年あたりまでが彼のひとつのピークをなしています。
70年代の主なアルバムを、ごく簡単に紹介します。
● 「スパース・オディティ」(1969)
シングルヒットした「スパース・オディティ」が有名でしょう。地球との連絡を絶たれ、宇宙をさまよい続ける孤独な魂……。
この曲はアポロ11号が月面に着陸したという時代の大きな節目とともにヒット。「スパース・オディティ」のように、ボウイの曲は社会的なできごとと深く影響し合いながら、人々に聴かれてきました。
ナイーヴな夢をテーマにした「シグネット・コミュティ」などの曲も忘れがたいものです。
● 「ハンキー・ドリー」(1971)
さまざまなキャラクターを演じ続けた1970年代のボウイを象徴する曲が「チェンジズ」です。
このアルバムも佳曲揃いで、孤独な少女が突然「火星には生命がいるのかしら?」と問いかける「ライフ・オン・マース」や、子どもの驚くべき「新しさ」を歌った「ユー・プリティ・シングス」など、それらが70年の曲だったとは思えない発見に満ちています。
● 「ジギー・スターダスト」(1972)
前半期のボウイを代表するアルバムです。架空のロックスター「ジギー」の盛衰が主なテーマですが、日本の歌舞伎にヒントを得たグラマラスで奇抜な衣装やメイク、バイセクシャル的なイメージとともにボウイは神格化されていきました。
「ファイブイヤーズ」「スターマン」、そして「ロックンロールの自殺者」といった曲からは、やはり“孤独な魂”を感じさせます。

死の直前に発表されたアルバム「★(ブラックスター)」(画像はイメージ)
死の直前に発表されたアルバム「★(ブラックスター)」(画像はイメージ)

アーティスティックな70年代後半のボウイ

●「ロウ」(1971)
ベルリンで録音され、ボウイの“ヨーロッパ回帰”が強調された一枚。
シンセサイザーの抽象的な音による、暗いトーンの曲が多いのですが、この時期のボウイはいたずらにキャラクターを演じるのではなく、現代音楽や美術からの影響を感じさせ、哲学的ともいえる歌詞で人々を魅了します。
次のアルバム「ヒーローズ」「ロジャー」とともに影響された人も多いのではないでしょうか。
「スピード・オブ・ライフ」は衛星放送のテーマ曲となってご存じの方も多いでしょう。
この後、ボウイはかの曲、「レッツ・ダンス」(1983)でアメリカでも大ブレークします。
また、「地球に落ちてきた男」(主演・1976年の映画)は、本当に宇宙に帰ってしまったよう……。
きたる2017年には日本でも大規模な美術館でのボウイ展「デビッド・ボウイ・イズ」が開かれる予定です。