2回シリーズでお届けしている「カキ」のお話。
16時30分配信の前編では、カキと人間の歴史をご紹介しました。
ところで皆さんは、カキをどんなふうに食べるのがお好きですか?
殻をあけたばかりのカキにレモン汁をかけていただく「生ガキ」をはじめ、焼きガキ、蒸しガキ、カキフライ、チャウダー、味噌仕立ての土手鍋、はたまた燻製をウイスキーと一緒に……などなど、さまざまな楽しみ方が思い浮かぶのではないでしょうか。
というわけで後編では、古代から現代に至る、世界のカキ料理をご紹介します!

世界じゅうで愛される「生ガキ」。喉ごしも味わいも、唯一無二
世界じゅうで愛される「生ガキ」。喉ごしも味わいも、唯一無二

カキといえば「やっぱり生ガキが最高!」!

生のカキを賞味する習慣は、古代からすでに確立されていました。
古代ローマの正餐では、氷で冷やしたカキ、またはガルム(魚醤)で味つけしたカキ、どちらかが欠かせなかったと言われます。
とはいえ、貝類はいたみやすい食材。輸送手段が発達する以前は、生ガキを口にできるのは沿岸部に住む人びとや上流階級の人びとなど、ごく一部の人に限られていたようです。
中世ヨーロッパで人気があったカキ料理といえば、ポタージュ状の煮込み料理やパテの類。たとえば「パリの作法」という本には、シナモンや胡椒、サフランなどの香辛料とともにカキを煮込んだ料理が出てきます。また、塩漬けや燻製などの加工品も各地で作られていました。
17世紀ごろになると、カキのラグーやローストなどと並んで、生でカキを食べるレシピが登場。都市部でも、生ガキを食べる習慣が徐々に普及していきました。
前編でもご紹介した、美食家として知られるアレクサンドル・デュマは、
「真の愛好家は、カキに何も手を加えない。生で食べるのだ。酢もかけない。レモンもかけない。胡椒もかけない」と書いています。
19世紀のフランスでは、かなり新鮮な生ガキが手に入ったのかもしれませんね!

牡蠣には生食用と加熱用があります!
牡蠣には生食用と加熱用があります!

日本とアジア、カキの食べ方あれこれ

日本でもカキは「酢ガキ」「焼きガキ」として、はたまた鍋や汁の具として、さまざまに料理されてきました。
カキの養殖が盛んな地方では、「カキ醤油」や「カキ味噌」、「カキの佃煮」なども作られています。
佐賀県に伝わるのは、「おとふせいも」という料理。
殻つきカキ(方言で「オトフセ」と呼ばれます)とサツマイモを一緒に蒸した料理だそうです。どんなお味なのか、一度は食べてみたいですね。
朝鮮半島でも、やはり古くからカキを食用にしてきました。
カキ入りのお粥、カキをはじめタラやワタリガニなどを取り合わせた海鮮鍋、生ガキを漬け込んだキムチなど、現在の韓国料理にもカキを使ったものがたくさん見られます。
中華圏でカキというと、オイスターソース(カキ油)を思い出す人も多いのでは?
このオイスターソースですが、カキを塩漬けにして保存する伝統があった中国の南部で、偶然に発見されたのだそうです。カキの漬け汁をなめてみた人がその美味しさに驚き、調味料として利用するようになったのだとか。

ゆでた野菜に、オイスターソースをとろり。中華のシンプルなひと皿
ゆでた野菜に、オイスターソースをとろり。中華のシンプルなひと皿

カキの名前のついた、不思議なカクテル。その正体は?

アメリカ生まれのカキ料理といえば、100年以上前にニューオーリンズのレストランで考案されたという「オイスター・ロックフェラー」。
殻つきのカキの上に、パセリやハーブの入ったバターソースをのせてグリルした料理です。
エスカルゴの調理法から発想されたというのが、フランスから移り住んだ人々が多かった土地柄を反映しています。
最後にご紹介するのは、カキを使っていないのにカキの名前がついた不思議なカクテル「プレーリー・オイスター」(草原のカキ)。
生の卵黄をグラスに割り落とし、ウスターソースやトマトケチャップ、酢などを加えたノンアルコールカクテルです。
生ガキに似た「喉ごし」が楽しめるというこのカクテル、いったいどんな味わいなのでしょう?
興味がある方は、ぜひ試してみてくださいね!
参考:成瀬宇平「47都道府県・伝統調味料百科」(丸善出版)
ウー・ウェン、金裕美、藤井宗哲、山本彩香「モンスーンの食卓 秋冬篇」(朝日新聞社)
野本寛一編「食の民俗事典」
マグロンヌ・トゥーサン=サマ(玉村豊男監訳)「世界食物百科」(原書房)
アレクサンドル・デュマ(辻静雄・林田遼右・坂東三郎編訳)「デュマの大料理事典」(岩波書店)