人を寄せ付けないような、荒ぶる寒さの日本海──。
そこで見られる冬の風物詩「波の花」をご存じですか。
岸辺の岩に打ち付ける荒波が白い泡となり、風に吹かれて花のように舞い上がる現象を「波の花」と言うのですね。
この「波の花」が多く発生するのが、石川県能登半島の日本海側沿岸です。
日本海の雄々しさと白い花のごとき泡の舞いが、一度見たら忘れられない神秘的な迫力を生み出します。
「波の花」は能登半島のほかに北海道などでも見られるとか。厳冬期しか見られない「波の花」について、紹介します。

雪のように見えるが、海水の泡。泡は強風に飛ばされ、陸地まで飛んで行く
雪のように見えるが、海水の泡。泡は強風に飛ばされ、陸地まで飛んで行く

能登半島の日本海沿岸は、男性的な景観が魅力

海に囲まれた能登半島は、日本海に面した海岸を外浦(そとうら)、富山湾側に面した海岸を内浦(うちうら)と言います。
日本海側にあたる外浦は、波が荒く、冬はシベリアからの強い風が吹き付ける気象の厳しい場所。
それゆえ波に浸食された奇岩や断崖が続く、見応えある景観となっているのですね。
この外浦のなかでも国の名勝、天然記念物にも指定されている曽々木(そそぎ)海岸は、「波の花」が見られる能登半島有数の景勝地。
長い年月をかけて、日本海の荒波をまともに受け止めてきたことで生まれた複雑な奇岩が、この地の勇壮な自然を物語っています。
とくにシンボルとなっているのが、窓岩と言われる奇岩。板状の岩の真ん中に約2mの穴が空いているとても珍しい岩なのですね。
また、曽々木(そそぎ)海岸にある垂水(たるみず)の滝は、山から落ちる水が直接海に流れ込む、とても珍しい滝。厳冬期には、強風にあおられて滝の水が空に吹き上がるという、珍しい現象を生むことでも有名です。
こうした地で見られるのが、海水が白い泡になって舞い散るという現象「波の花」です。
なぜ、こうした現象が起きるのでしょう。

曽々木海岸の「窓岩」。1500年前の流紋岩が波に浸食され、様々な奇岩を生んだ
曽々木海岸の「窓岩」。1500年前の流紋岩が波に浸食され、様々な奇岩を生んだ

厳しい寒さ、荒波、大しけが生む「波の花」

「波の花」は、岩に打ち付けられた白い泡が、風に飛ばされて空を舞うさまが、白い花びらのようにみえることから、そう呼ばれるようになったそうです。
白い泡の正体は、海中に漂う植物性プランクトンの粘液が、荒波にもまれて、石けん状になったからだと言われています。
「波の花」が見られる条件としては、まず植物性プランクトンが住み着く綺麗な海であること。
そして、海水がとても冷たく、かつ荒波であることです。
海水の温度が低いほど、プランクトンの粘液性が高まり、それが岩などに何度も打ち付けられるたびに、空気を含んで泡状になるのですね。

能登半島に示された赤い点の部分が曽々木海岸
能登半島に示された赤い点の部分が曽々木海岸

見頃は2月末まで。高波には注意

能登半島の厳しい気象条件は、独特の景観を生み出していますが、「波の花」もそのひとつ。
見頃は11月から2月末までで、寒さが激しく、海が荒れて高波の日です。
と言うと尻込みしてしまうかもしれませんが、強風に舞い上がる白い泡の花々は、圧巻で忘れがたい光景です。
ただし高波等で危険も伴うため、見学にはくれぐれも注意が必要です。
また、白い泡は時間と共に黄色くなるため、服などに付くと染みになって落ちなくなってしまいます。塩害もあるので、カメラ等が壊れないように十分注意が必要です。危険のないよう遠くから観賞するのがよいでしょう。
この厳しい気候風土があってこその花の舞い──。
日本海が生む特別な冬の風物詩をぜひ、観賞してみてはいかがでしょう。
参考/ほっと石川 旅ネット