キーンと冷えた冬の朝、北国の海面が霧で覆われているのを見たことはありませんか。これは「けあらし」と呼ばれ、北海道の沿岸や富山湾などで見ることができます。冬の風物詩にもなっている「けあらし」。冬の“しばれる”朝、水面からもうもうと立ち昇る霧を見て、厳しい寒さを実感する季節になりました。

日の出の時刻。霧が海面を覆っている
日の出の時刻。霧が海面を覆っている

北海道・留萌(るもい)地方で使われ始めた方言、「けあらし」。

「けあらし」は、放射冷却で冷え込んだ早朝に海面で発生する霧のことをいい、漢字で「気嵐」または「毛嵐」と書きます。漢字に「嵐」の字を使いますが、「けあらし」が発生する朝は、風が弱く穏やかです。
「けあらし」という言葉は北海道の方言で、『北海道方言辞典』(北海道新聞社、石垣福雄著 )によると、「海水と空気の温度差によって水蒸気が大量発生すること」とあります。北海道の留萌地方で使われ始めた方言なので気象用語ではありませんが、このような現象を気象用語では「蒸気霧」(じょうきぎり)といいます。「けあらし」と「蒸気霧」の違いは、「けあらし」は海面の霧のことを指しますが、「蒸気霧」は海だけでなく、川や湖沼など、水面に発生する霧のことを指します。

気温と海水の温度差が15℃以上、風は穏やか、快晴の早朝…。条件がそろったときに見られる

北海道留萌振興局のホームページによると、「けあらし」が発生しやすい条件の目安は5つあります。
・天気が快晴、または晴れであること(晴れていると、夜間の放射冷却で気温が下がりやすい)。
・気温が-15℃前後。
・気温と海水温の温度差が15℃以上。
・東南東の風系。
・風速は3~5m/s。
風が穏やかで気温が下がった冬の早朝、冷たい空気が暖かい海面の上にとどまっているとき、海面から蒸発した水蒸気が急激に凝結して発生する霧が「けあらし」です。朝起きると一夜のうちに、見慣れた海が一面霧で覆われ、幻想的に見えます。しかし、日が昇って気温が高くなる午前10時ころになると、「けあらし」は消えてしまいます。

函館市の立待岬の冬の朝。寒い…。
函館市の立待岬の冬の朝。寒い…。

高気圧に覆われるので漁師には歓迎される。でも、視界が悪くて船の航行が困難なときも

「けあらし」が発生する日は高気圧に覆われているので、風もなく、昼間は穏やかに晴れることが予想されます。したがって、海が早朝に霧で覆われる日は漁師にとって、「漁日和」として歓迎されています。
一方で、写真のようにもうもうと霧が立ち込めると、視界が悪くて船の航行に支障をきたす場合もあります。
「けあらし」の発生は、いくつかの気象条件に左右されます。この、大自然の神秘を一度見てみたい方は、前日の天気予報などを入念にチェックして、気象条件を確認してください。また、気温が低いときにこそあらわれる現象なので、どうぞ厚着をしてお出かけを。

しばれる朝、霧の中を進む船。
しばれる朝、霧の中を進む船。