年末に響くベートーヴェンの『第九』。
今年の12月、プロのオーケストラによる『第九』は80回を超え、アマチュアや学生による演奏を加えると、年末には毎日どこかで『第九』が聴こえる、という計算に。
管弦楽団と大人数の合唱団に加え、四人の独唱者を必要とするため、欧米でもプログラムに載せるのは難しい曲ですが、なぜ日本では年末にこれほど演奏されるのでしょうか。
『第九』が年末の風物詩となった秘密を探ってみました。

ウィーン・フィル・ハーモニー管弦楽団演奏会より。©Silvia Lelli
ウィーン・フィル・ハーモニー管弦楽団演奏会より。©Silvia Lelli

『第九』の演奏会が12月に集中するのは日本だけ

俗にいう『第九』は、『交響曲第九番ニ短調作品125』ですが、ベートーヴェンが楽譜に記入した正確な表記に従えば《シラー作の賛歌「歓喜に寄す」による終末合唱を持つ交響曲》となります。
これでは長すぎるため、九番目の交響曲として単に『第九』という呼称が一般的です。
アメリカ合衆国でオーケストラが年末にプログラムに取り上げる曲といえば、「ハレルヤ」コーラスで有名なヘンデル作曲のオラトリオ『メサイヤ(救世主)』が定番で、12月の演奏会で『第九』を演奏する例は滅多にありません。
ヨーロッパでもないに等しいのですが、例外的な事例として、ドイツのライプツィヒ・ゲバントハウス管弦楽団が第一次世界大戦の終結した1918年の大晦日に、平和と自由への願いを込めて『第九』を演奏して以来、このオーケストラでは12月31日の演奏が伝統となっています。
また、オーストリアではウィーン交響楽団が12月30日と31日に『第九』を演奏する習わしがあります。
欧米各国では、終楽章に「歓喜の歌」を持つ『第九』は、祝典や歴史的な行事の際に演奏されます。
第二次世界大戦後、1952年にバイロイト音楽祭が復活した際のフルトヴェングラー指揮による記念碑的公演や、ベルリンの壁崩壊の1989年にバーンスタインが東西両陣営の音楽家達を指揮して「自由の喜びを共に祝するために」演奏した世紀のコンサートなどがよく知られています。
このように、欧米では特別な機会に『第九』を演奏することはあるものの、年末だからとあらゆるオーケストラが演奏するものではなく、年末の風物詩となっているのは、わが国だけの現象のようです。

年末恒例の『第九』演奏会は、どのようにして始まった?

では、日本のオーケストラが年末に『第九』を演奏するのはなぜでしょう?

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