年末になると、街は何となくせわしくなり、街頭を彩る賑やかな音も普段とは違ってきます。
クリスマスソングはもちろん、セールの告知、募金の呼びかけなど……。
季節や場所、時間帯などによって、外界から聞こえてくる音はそれぞれに異なっています。
つまり場所や時間は、固有の「音の風景」もしくは「音の環境」を持っているのです。
こうした考えは1970年代から「サウンドスケープ」という学問の一分野として紹介され始めました。

様々な町で、聞き慣れた音を流しながら低速で走る小型トラック
様々な町で、聞き慣れた音を流しながら低速で走る小型トラック

人間生活を取り囲む「音」

雀やカラスの鳴き声などはもっともありふれた「音の風景」を構成するものですね。風の音や雨だれの音も、自然が作る音の風景です。もし海の近くに住んでいるとすると、海鳴りの音などがするでしょう。
たとえば住宅街の人為的な環境音としては、新聞配達のバイクの音、廃品回収のアナウンス、ピアノのおけいこ、夕方になると(最近あまり聞きませんが)豆腐屋のラッパの音、お寺の鐘、夜には犬の遠吠え、夕方5時になると防災行政無線から流れる「夕焼け小焼け」「家路」「赤とんぼ」……(あなたの街では、どんなメロディが流れていますか?)。
知らず知らずのうちに、これらの音は生活のリズムの一部となっていることも多いのではないでしょうか。
一方で、建設現場の音や飛行機の発着音などは「騒音」と位置づけられます。こちらはストレスを引き起こして、病気の原因になることすらあります。

この画像を見て、どんなサウンドを連想しますか?
この画像を見て、どんなサウンドを連想しますか?

街の表情を変える「耳」

お祭りのお囃子の音、花火の音、稲妻の音など、季節とともに変化する音もあります。
人間はこのような「音」に取り囲まれて生きているのです。
旅をすると、場所によってこの「音の風景」ががらっと変わるのに気がつくはずです。
NHKラジオでは、「音の風景」という毎日世界各地の音風景を流している短い番組を放送しています。
番組表(リンク先参照)を見ると、「エゾシカの秋~北海道~」「かに市~福井~」「明治生まれのSL2109号~埼玉~」「大歩危峡の秋~徳島~」……と、様々な音の風景がラインナップされています。いったいどんなサウンドが聞けるのでしょうか。
こうした「音の風景」を総合的に考えるのが「サウンドスケープ」という考え方です。
このような音の環境は、人間の気分や行動パターンなどに影響することも多いはずですから、文化人類学調査や環境デザイン、都市計画に応用されたりすることもあります。
カナダの音楽学者マリー・シェーファーは『世界の調律』(平凡社ライブラリー)という本を書いています。
街歩きの楽しみの一つとして、この「サウンドスケープ」のことをちょっと頭に入れてみてはどうでしょうか。
いつも歩いている街の風景だけではなくて、「音の風景」を気にしてみると、街の表情が大きく変わるはず。
ヘッドフォンで耳をふさいでいるままでは、街のもう一つの表情を聞き逃してしまっているかもしれません。
歩き慣れた新宿と渋谷であっても、「サウンドスケープ」を意識してみると、いつもとちょっと違った音風景が感じられるはずです。

風にざわめく木々の葉など、街は様々なサウンドに満ちています
風にざわめく木々の葉など、街は様々なサウンドに満ちています