よい意味と悪い意味、どちらにおいても古くから日本各地に様々な伝説が残る「きつね」。
稲荷神社と名のつくところに行けば、きつねは稲荷神の神使(しんし)として重宝されています。
よい意味でのきつねとは裏腹に、人間を騙すイタズラ好きな動物という悪い伝説もあり、日本人にとっては古代から様々な伝承に姿を現すなじみ深い動物なのです。
さらに、“天気雨”のことを「きつねの嫁入り」とも言いますが、なぜこのような呼び名になったのか? その謎に迫ります。

稲荷神社でよく見かける「きつね」の石像。見る人にとっては怖い存在でもあります
稲荷神社でよく見かける「きつね」の石像。見る人にとっては怖い存在でもあります

「きつねの嫁入り」は、良縁に恵まれる!?

毎年11月3日、山口県下松市にある花岡福徳稲荷社では「稲穂祭」というお祭が開催されます。
五穀豊穣、商売繁盛を祈願したもので、今の形になったのは約70年前の1950年のこと。
この稲穂祭の名物行事が「きつねの嫁入り」です。紋付き袴の新郎新婦が結婚式をあげる。ただ、それだけならいたって普通の結婚式ですが、この祭りの驚くべきところは、主役である新郎新婦が白きつねのお面をかぶっているという異様さにあります……。
花岡福徳稲荷社は法静寺の境内にありますが、この寺では昔から「白きつね伝説」なるものが語り継がれてきました。
〈──あるとき、住職の夢の中に白きつねの老夫婦が現れ、「私たちを人間と同じように葬ってくれれば数珠を返す」と言い残し、姿を消しました。住職が目を覚ますと枕元には、なくしたはずの数珠があるのです。その後、住職は死んだ2匹の白きつねの墓を建てて祀ったといいます──〉。
以来この地域では、きつねは人間にとって幸せをもたらす存在として大事にされ、良縁に恵まれる「きつねの嫁入り」の行事に発展しました。

きつねのお面
きつねのお面

不気味な鬼火としての「きつねの嫁入り」

きつねを神の使いとして崇める地方がある一方で、怪しい存在として「きつね」を悪者ととらえている人々もいました。
「きつねの嫁入り」の「きつね」は「鬼火」であるという伝承があり、これはつまり、怪談話によく現れる火の玉のような現象です。

夜中に山野で、きつね火が行列のように発生していたという伝説が各地に残されています。
この、きつね火の数々が、婚礼の際の行列を思わせることから「きつねの嫁入り」と呼ばれるようになったという説も……。地域によって「きつねの嫁入り」伝説は少しずつ内容が異なりますが、人間を騙すという悪い意味で、きつねが不気味な鬼火(存在)とされていたことも事実です。

「天気雨=きつねの嫁入り」といわれるのはなぜ?

晴れているのに雨が降っているという不思議な現象を、皆さんも一度は体験したことがあるのではないでしょうか?
こうした“天気雨”を「きつねの嫁入り」とも呼びますが、この晴れているのに雨が降っている現象は、きつねに騙されているのと同じような気分ということに由来します。
さらに、「きつねの嫁入り」という呼ばれ方が定着したのも、不気味で甚大なチカラをもつきつねなら、天気だって操作しかねない……と考える人が多かったことも背景にあるようです。
なお、天気雨=動物の嫁入りとする伝説は世界各国にもあるようです。アフリカではサル、韓国ではトラ、ブルガリアではクマ、イギリスとイタリアは日本と同じく「きつね」だそうです。
── 諸説ある「きつねの嫁入り」伝説ですが、よくも悪くも、不思議な力をもつ生き物と伝承されてきたきつね。
天気雨=「きつねの嫁入り」のときは、虹がかかることも多いですよね。ラッキーをもたらしてくれる「きつね」と考えた人ほど、ご利益が得られるかもしれませんね。

雨雲と晴天が隣り合わせの様子はたしかに不気味……
雨雲と晴天が隣り合わせの様子はたしかに不気味……