秋の日に夢中で拾った、どんぐり。人形やアクセサリーを作ったことはあっても、ふだん食用にしている方はあまりいらっしゃらないかも・・・じつは栄養豊富で、縄文時代には欠かせない主食でした。しかも最近は、有害物質を体から排出してくれるデトックス効果も注目されています。パンにクッキー、おだんごにスープ、 コーヒーやお酒。絵本の住人(とくに森の動物)たちのように、秋の恵みをいただいてみませんか。

さあ、食べてみましょう! でもどうやって?
さあ、食べてみましょう! でもどうやって?

「どんぐり」という木は、ありません。葉っぱや帽子で見分けてみましょう♪

漢字で書くと『団栗』。コロンとした形から、アジアの「円い(まるい)」という意味の「トングルダ(朝鮮語)」や「トグリク(蒙古語)」、また日本語の「トグロ」などが語源といわれています。また、コマにして遊ぶことから、コマの古名「ツムグリ(回転する石)」が転じて「ドングリ」なったという説もあります。
私たちが「どんぐり」と呼んでいるのは、ブナ科のナラやカシの木の実のこと。
常緑樹 (シラカシ・アラカシ・アカガシ・マテバシイ・スダジイなど )と落葉樹(コナラ・ミズナラ・クヌギ・カシワなど)があり、花が咲いたその年に実が熟すものと、花の咲いた翌年に実が熟すものとがあります。
葉っぱの色や形もさまざま。どんぐりを拾いながら、葉やカクト(殻斗。どんぐりの入っているお椀のような帽子のようなもの)で種類を見分けるのも楽しいですね。リンク先でもどんぐりの見分け方をご紹介しています。

帽子(パンツ?)もいろいろ。おしゃれさんたちです
帽子(パンツ?)もいろいろ。おしゃれさんたちです

どんぐりは、食べられる! 栄養豊富、チャコールグレイもお役立ち

どんぐりはすこぶる栄養価に富み、68%が炭水化物、18%が脂肪、6%がタンパク質で、アミノ酸やビタミンA、Cを多く含みます(参考サイト・『JA長野県』)。また、どんぐりの『アコニック酸』という成分は、体内に蓄積された重金属などの有害物質の浄化・排出を促すデトックス効果があるといわれています。
縄文時代、どんぐりはなんと主食でした。当時の遺跡からは、貯蔵された大量のどんぐりや どんぐり粉で作った食べ物が発掘されています。「縄文クッキー」「縄文せんべい」「縄文パン」「縄文ハンバーグ」と、どんぐり料理は「縄文」と名付けられるのも納得です。
稲作がはじまりお米が主食になってからも、どんぐりは飢餓や食糧難に備える非常食とされ、パワーフードとして世界中で用いられてきました。現在も、どんぐりで飼育されるスペインのイベリコ豚などが知られていますね。
また、どんぐりは布や毛糸の染料としても使われます。昔はクヌギを『橡(つるばみ)』と呼び、色が褪せにくく虫がつきにくい「つるばみ染め」は重宝で、そのチャコールグレイは庶民の色でした。万葉集にもつるばみ染めの着物を詠んだ歌が何首かあります。
橡の衣は人皆事なしと言ひし時より着欲しく思ほゆ
「つるばみ染めの着物は、みんなが『着やすくていい』と言うのを聞いてから、着てみたいと思った」。これは「つるばみの着物みたいに(目立たないけれど)いい娘だよ」と みんなが言うのを聞いてから、その人に気持ちが傾いています、という恋の歌だともいわれています。どんぐりのように、コロンと可愛くて実力派の女性でしょうか。

はじめて食べるなら、そのままいける「椎の実」がおすすめです!

どんぐりにはアク(タンニンやサポニンの渋み成分)があり、多くの場合アク抜きしないと食べられません。含まれる量は種類によって違い、マテバシイやスダジイなどの「椎の実」なら、アクが少ないのでそのままでも食べられます(昔は子供たちのおやつになりました)。はじめて食べる人にとっては、水を何度も取り替えて煮たり水にさらす必要がないのはたすかりますね。
拾ってきたら まずは水に浸けて、浮いてきたどんぐり(虫食いの実)をとりのぞきます。
どんぐりから白い虫が出てきて気絶しかけたことがありますが、それはゾウムシの幼虫・・・ドングリが小さくてまだやわらかいうちに卵を産みつけ、幼虫は土に潜って冬を越し、夏に成虫になって地上に出てきます。実にできた孔は、卵を産みつけるため成虫がゾウのように長い鼻、ではなく長い口先で開けたのです。
椎の実をフライパンで皮ごと煎って、あたたかいうちに皮をむいて食べてみましょう。栗に似たほのかな甘みで、小動物気分を満喫できますよ。煎る時はフタをすると、はじけても安心。それも面倒な方は、大きめの封筒など丈夫な紙袋に入れてレンジでチンしてもOKです。
薄皮をむいてご飯に炊き込む「どんぐりごはん」もお勧めです。拾ってきたどんぐりは洗って日にあてておくと、皮がはじけてむきやすくなります。古くなると固くなって料理しにくいので、ぜひ新鮮なうちに。
どんぐりコーヒー 、どんぐり豆腐、どんぐりもち、どんぐりだんご・・・ミキサーかフードプロセッサーで細かくすると、手軽に食べ方の幅が広がります。どんぐり料理が並ぶテーブルなんて、絵本のおうちみたいですよね! 興味のある方は、いろいろな「どんぐりクッキー」のつくりかたが紹介されたリンク先もどうぞ。

マテバシイのどんぐりごはん。おままごと風です
マテバシイのどんぐりごはん。おままごと風です

動物たちにも大切な山の糧。どんぐり銀行をご存じですか?

どんぐりを「貯金」する、どんぐり銀行があるのをご存じでしょうか?
拾ったどんぐりを預けると、「払い戻し(苗木と交換)」されたり植樹されて、また森に帰っていくというしくみです。香川県など各地にあり、自然活動やイベントを通じて子供たちと森をつなぐ働きもしています。
どんぐりを食べると「山の恵みをいただいている」実感がわいてきます。動物にとっても大切な食べ物を分かち合うことは、自然や食事を考えるきっかけにもなりますね。
長野県・王滝村や鳥取県・白鳳の里など、地元のどんぐりで作った食べ物でおもてなししてくれる観光地も。秋の終わり、おでかけした山で本場のどんぐりを味わってみてはいかがでしょうか。
<参考文献・サイト>
『まるごとどんぐり』大滝玲子 どんぐりクラブ(草土文化)
『どんぐり銀行』