暦も「秋分」の候末となり、本日から七十二候≪水始涸(みず はじめてかる)≫の時季となりました。すでに全国各地の田圃が黄金色に色づき、収穫の秋、実りの秋が訪れています。いよいよ稲刈りシーズンを迎える水田では、これまで稲を育ててきた水を落とし流し出します。秋風に稲穂がさわさわと揺れるこの頃の眺めは、見つめるだけで心が豊かに満ちてゆくような日本ならではの情景です。

豊穣の秋!全国で稲刈りが行われ、収穫を祝う秋祭りが続々

水田に植えられた稲は、たっぷりの水をすってすくすくと育ち、8月中旬ごろから白い花をつけ、9月に実を結びます。
そして迎える秋の稲刈りシーズン。米作りに携わる人々にとって、一年間の努力が報われる時期です。全国各地の村里では、昔から田の神様に「初穂(新しく刈り取った稲の束)」を捧げ、収穫の感謝を祈念する行事や秋祭りが行われてきました。
例えば、伊勢神宮の外宮(五穀豊饒を守護する神様・豊受大御神が祀られています)では、10月中旬に「初穂曳き」の行事が行われ、全国から寄せられた初穂が内玉垣に掛けられるとのこと。
また、新暦の10月10日または月遅れの11月10日の夜に東日本で行われている「十日夜(とおかんや)」もまた、田の神を祀る行事。昔は、田の神様が里を離れ山に帰るこの日までに、稲刈りを終わらせなければならないと考えられていたということです。
そして、田圃の稲を守ってきた案山子(かかし)たちもお役目満了。長野県では、案山子を田の神様に見立ててお供え物をする「案山子揚」が行われるほか、何ともほほえましい案山子祭りが各地で行われます。

日本の伝統文化を支える「お米」。風習もことわざもいろいろ

日本人にとって最も大切な作物だった「お米」。食料としてはもちろん、武士の給金から職人の日当まで「お米」で支払われるなど、今では考えられないくらい重要な役割を担っていたのです。
田楽などの芸能のはじまりは、田植えのときの歌やおはやし。相撲の土俵入りで「四肢(しこ)」をふむ所作も、大地をふむことで災いを祓い、豊作をもたらす田の神の力を呼び起こしたものだとか。
お正月の鏡とお雑煮から始まる日本人の一年は、お米の伝統文化に支えられてきたのですね。
「実る稲田は頭(こうべ)垂(た)る」
「実るほど頭を垂れる稲穂かな」
これは、稲の穂は実が入ると重くなって垂れ下がる。人間も徳が高まり、学問が深まると、いっそう謙虚につつましくなるというたとえ。
「米一粒 汗一粒」「粒々辛苦(りゅうりゅうしんく)」
農民が米の一粒一粒を苦労してつくるように、努力を積み重ね成し遂げること。そんな農民の汗の結晶であるお米を大切にし、粗末にしてはならないという教え。
これらお米に関することわざや句も、私たちの暮らしに古くから根付いています。米離れといわれている現在でも、やっぱり日本人の主食は何?と問われれば、「お米」と答える方も多いことでしょう。

おいしいお米の格付け。「特A」ランク米の審査基準とは??

さて、新米も出回るこの時期ですが、産地も銘柄もいろいろあってどのお米を買おうか迷いますね。おいしいお米を食べたいと思ったとき、セレクトの基準のひとつとなるのが、「米の食味ランキング」です。
これは、第三者検定機関である一般財団法人「日本穀物検定協会」が、(昭和46年度米から)米の食味に関する官能試験による評価を行い発表しているもの。
炊飯した白飯を専門パネラーが実際に試食し、外観、香り、味、粘り、硬さ、そして総合評価の6項目にわたり審査。複数産地コシヒカリのブレンド米を基準米とし、これと試験対象産地品種を比較して大体同等のものを「A’」、基準米よりも特に良好なものを「特A」。良好なものを「A」、やや劣るものを「B」、劣るものを「B’」として、5段階で評価を行っているそうです。(下記リンク先参照)
ちなみに平成26年度のお米で最高ランク「特A」に格付けされたのは、133産地品種中で42種。ブランド米の鉄板ともいえる「コシヒカリ」が多いなか、北海道の「ななつぼし」や山形県の「つや姫」、鳥取の「きぬむすめ」、本の「森のくまさん」など気になる銘柄も続々選ばれています。
今年の新米も生産者のみなさんの汗の結晶。特A米を選んでみるのもよし。昨今人気上昇中の(生産地域ごとにブランド化されたお米)「ご当地米」からこだわって選んでみるもよし。研ぎや水加減、むらしにまでこだわって、一粒一粒大切にいただきたいものですね。

※参考&出典
年中行事読本(創元社)
旬の日本文化(神崎宣武著/角川ソフィア文庫)
植物ことわざ事典(東京堂出版)