月を眺める行事=「お月見」。
別名「観月」とも呼ばれ、とくに陰暦8月15日に見る月は「十五夜」、「三五夜(十五に由来する呼び名)」として親しまれてきました。
さらに、この日に見る月には「中秋(仲秋)の名月」「三五の月」、里芋を供えることから「芋名月」などの呼び方も。
ちなみに「中秋」とは、秋(陰暦の7~9月)の真ん中にあたることから称されたもの。
夜空の中でもひときわ明るく輝く月に、昔の人びとはどんなイメージを投影していたのでしょう。
今回は月にまつわる物語をご紹介します。

日本では一年じゅう手に入る月餅ですが、本来は中秋節に食べるお菓子なのだそう
日本では一年じゅう手に入る月餅ですが、本来は中秋節に食べるお菓子なのだそう

お月さまに生えている「木」って、どんな木?

中国や香港、台湾、シンガポールなど中国系の人びとが多い土地では、「中秋節」=お月見はとても大切な行事です。
大きな月をみんなで切り分けて食べたり、月に見立てたランタンを飾ったり。
高級ホテルやパティスリーでは、それぞれ趣向をこらした月餅を発売します。
古代中国では、月には「桂(けい)」という想像上の木が生えていると考えられており、そこから月を別名「桂」と呼ぶようになりました。料理に使う「ローリエ」を月桂樹と呼ぶのは、これにちなんで名づけたものでしょうか。
また、月には「嫦娥(じょうが)」という別名もあります。
これは、不老不死の妙薬を飲んで天にのぼったと言われる伝説上の女性の名前です。

9月はお月見のシーズンですね
9月はお月見のシーズンですね

昔、月は太陽だった……台湾に伝わるユニークな物語

台湾のある民族に伝わるのは、こんな物語です。
昔、太陽はなんと二つありました。二つの太陽が昼夜交代で空にのぼるため、川は干上がり、作物は育たない……。
困り果てた人びとは、ひとつの太陽を射落とすことにしました。そうして射られた太陽から飛び散った血が星たちに、血を失った太陽は白くなって月になったのだと言われています。
日本では「月にはウサギが住んでいる」と言いますね。
お月さまの模様をウサギに見立てる伝説は、インドや中国などいろいろな場所に残っています。
ベトナムに伝わる昔話をご紹介しましょう。ある時、旅の老人と出会ったウサギ。老人が空腹であるのを知り「わたしを食べてください」と自ら火に飛び込みました。
この旅の老人は、実は天の神さま。親切なウサギをみんなが敬愛するようにと、月にその姿を刻みつけたのだそうです。

お月さまは「女性」?それとも「男性」?

太平洋の島々に暮らす人びとにとっても、月はとても大切なもの。
ハワイでは、月はたくさんの星々を総べる「長」であるとされ、光を意味する「マラマ」という名前で呼ばれるそうです。また、ポリネシア文化圏では、お月さまの表面の模様は、女神ヒナの姿を表すと考えられています。
古代中国の「嫦娥」といい、お月さま=女性と考える文化が多いような気がしますね。
そういえばギリシャ神話でも、月は女神アルテミスです。
でも、インドを中心に伝わるヒンドゥーの神話では、月は男性神なのです。
他の民族ではどうなのでしょう?  調べてみるのも楽しそうです。

曇りや雨でも、「お月見」を楽しむ心意気

せっかくのお月見なのに、曇りや雨……でも、がっかりする必要はありません。
雲がかかって名月が見えないことを「無月(むげつ)」……
雨で見えないことを「雨月(うげつ)」……という粋な言い方があるのです。
「それでも、どうしても月が見たい」という方は、陰暦9月13日に行われる「十三夜」「後の月見」を待ちましょう。
ちなみに、月のきれいな夜は「良夜(りょうや)」、過ぎ去るのが惜しいほどなので「可惜夜(あたらよ)」……
こんな美しい呼び名もあるそうですよ。おいしいお団子を用意して、お月見を楽しんでくださいね!
参考:「アジアの星プロジェクト」海部宣男監修「アジアの星物語 東アジア・太平洋地域の星と宇宙の神話・伝説」、林完次「宙の名前 新訂版」「星のこよみ」、芳賀日出男監修「国際理解を深めよう! 世界の祭り大図鑑」(PHP研究所)