中央アジアからヒマラヤ地方にかけてが原産地といわれる「カラシ(マスタード)」。
カラシ菜の種から作られる、ピリッとした辛さが魅力のスパイスです。
古くは、神経痛の治療や咳止め薬としても使われていたそう。
種ばかりでなく、葉や茎もハーブや野菜として使われ、さまざまな品種が出回っているカラシ。
そんなカラシの種の収穫期は、日本では9月ごろから始まるとか。
和カラシが「旬」を迎えるこの季節、カラシにまつわる話を集めてみました。

大航海時代以前のヨーロッパでは、カラシは貴重な「辛い」スパイスでした
大航海時代以前のヨーロッパでは、カラシは貴重な「辛い」スパイスでした

高菜やザーサイも「カラシ菜」の仲間です

古代エジプトや古代メソポタミアの時代から、すでに栽培が行われていたと言われるカラシ菜。
古代ローマの学者プリニウスの著書「博物誌」でも、カラシ菜が紹介されているそうです。
そんなカラシ菜が日本に伝来したのは、平安時代のこと。
現存する日本最古の薬物辞典と言われる「本草和名」でも、カラシ菜が紹介されています。
その後、ワサビ菜、高菜など、さまざまなカラシ菜の変種が食生活に取り入れられ、おひたしや漬け物などに調理されるようになりました。
カラシ菜の魅力は、独特の辛い風味。
いわゆるアメリカ大陸の「発見」以前のヨーロッパでは、カラシ菜がほぼ唯一の「辛い」スパイスだったと言われます。
おなじみの中国の漬け物「ザーサイ」も、原材料はカラシ菜。高菜の一種の太った茎を干してから、塩や酒、香辛料とともにカメに漬けたものです。

カラシは「野菜」?「ハーブ」?「スパイス」?

ひと口にカラシ菜といっても、その種類は多種多様。
「スパイス用」「搾って油をとる用」「野菜として食べる用」など、さまざまな品種が存在しています。
一般に「ハーブ」とは葉や花を利用するもの、それに対して樹皮や種子、根を使うものは「スパイス」と呼ばれます。
種から作る練りカラシやマスタードは、ですから「スパイス」と言えますね。
ところがカラシ菜は、種からカラシを作るほかにも、若い葉(ベビーリーフ)をサラダに、成長した葉を煮込み料理や漬け物、さらには香味野菜として使うこともあります。
「野菜」であり「ハーブ」であり「スパイス」でもある、とても幅広い用途を持つのが「カラシ」なのです。

カラシ菜。スーパーで見たことありますか?
カラシ菜。スーパーで見たことありますか?

練りカラシを溶く時に、気をつけること

皆さんは、カラシ粉を溶いて練りカラシを作ったことはありますか?
「いつも練りカラシのチューブを使っている」という方は、ぜひ一度カラシ粉を購入して練りカラシ作りに挑戦してみては。
乾燥状態のカラシ粉は、辛味も、香りもほとんどありません。
水やお湯で練ると、酵素の働きで辛味成分のイソチオシアネートが生成され、辛くなるのです。
ちなみに、イソチオシアネートは40度ぐらいの温度下で最も活性化されるので、ぬるま湯で作るのがおススメだそうですよ。
また、カラシの辛みは加熱したり、長時間放置したりすると「抜けて」しまいます。
できれば、食べる直前に練るとよいようです。

カラシと日本の食卓の、不思議な関係

おでんに、洋食、冷やし中華……。カラシを添える料理は数知れず。
でも「なぜカラシを添えるのか」については、今ひとつわかっていないことが多いのです。
一例を挙げると「納豆」。
納豆にカラシを添えるようになったのは、あの独特の匂いを和らげるため、という説があります。昔の納豆は、スーパーなどに出まわっている現在の納豆よりも、ずっと匂いが強かったようですね。
ゆでた野菜や海藻などを、酢味噌やカラシ酢味噌であえる「ぬた」。
ぬるぬるした食感が「沼田」を連想させるため、その名がついたといわれます。
室町時代にはすでに成立していたとされる、古い調理法です。
室町時代といえば、醤油ができる前の時代。
そういえば、以前(天気.jp 8月2日)の記事でご紹介した「そうめん」にコショウやカラシを添える食べ方も、室町時代の話です。カラシは、現代の私たちが想像する以上に大切な役割を果たしていたのかもしれません。
秋は野菜がおいしい季節。からしを効果的に使用して、大地の恵みからたっぷり滋養を養ってくださいね。
参考:ゲイリー・アレン著(竹田円訳)「ハーブの歴史」
農山漁村文化協会編「地域食材大百科」
エスビー食品株式会社「スパイス&ハーブマスターの使いこなしレシピ」