暑い季節には静かな音楽がいいですね。フランスの作曲家エリック・サティの音楽も、ある意味静かで、瞑想的です。
「音楽界の異端児」「音楽界の変わり者」と称され、西洋音楽に大きな影響を与えたサティの作品は、BGMのようにしても聞けるのですが、実はサティはいろいろな面を持った非常にユニークな作曲家でした。
この夏、関連の展覧会も開かれていますから、有名な「ジムノペディ」しか知らない人もあらためて聞いてみてはいかがでしょうか。

サティの楽譜には不思議な指定が多く書き込まれている(高橋アキ校訂)
サティの楽譜には不思議な指定が多く書き込まれている(高橋アキ校訂)

転換期の作曲家

エリック・サティ(1866~1925年)は、日本でいうと、明治維新の少し前に生まれて昭和が始まる年まで生きたことになります。
当時のフランスは、世紀が入れ替わるときでもあり、エッフェル塔に象徴されるような、近代文明が社会に全面的に展開し始めた大きな転換期でした。
当時20代のサティは、パリのカフェ「黒」にいりびたり、ピアニストのアルバイトなどをしています。「ジムノペディ」はこの頃書かれた作品です。

さまざまな人物と交流

「黒猫」で出会ったさまざまな人物との交友をはじめとして、サティは同時代の芸術家と交流がありました。
作曲家のクロード・ドビュッシー、モーリス・ラヴェル、そして芸術家のピカソや、詩人のジャン・コクトーなどとも舞台作品を制作したりしています。
さらに、20世紀初頭の造形美術において革新的な発展を促した3大のアーティストの一人と見なされているダダイスト※のマルセル・デュシャンや、同じくダダイストまたはシュルレアリストとして、写真家としても知られ多数のオブジェを制作したマン・レイなどとも交友がありました。
恋愛関係は短期間で終わりますが、近代のフランスの画家・モーリス・ユトリロの母、シュザンヌ・ヴァラドンは恋人でした。
※ダダイスム = 1920年代にヨーロッパで起こった、既成の秩序や常識に対して否定、攻撃をした芸術思想

「ジムノペディ」だけではない幅広い音楽性

サティの曲の中で、一番よく知られているのは「三つのジムノペディ」あるいは「三つのグノシエンヌ」でしょう。
ゆったりと反復する3/4拍子に、透明でユニークな和音が響きます。
どことなく、古代的な(グレゴリオ聖歌との関連がしばしば指摘されます)、そして東洋的な印象もあります。独特の愁いを帯びた旋律でありながら、押しつけがましいところは一切ありません。
『ジムノペディ』(Gymnopédies) は、エリック・サティが1888年に作曲したピアノ独奏ですが、
3曲で構成された第1番から第3番までには、次のような指示がありました。
第1番「ゆっくりと苦しみをもって」(Lent et douloureux)
第2番「ゆっくりと悲しさをこめて」(Lent et triste)
第3番「ゆっくりと厳粛に」(Lent et grave)
このほかにも、キャバレー時代には多くのシャンソンを作曲し、または現在の「環境音楽」といわれるものの先取りとも評される「家具の音楽」の構想、さらには「840回繰り返す」という指示のついた「ヴェクサシオン」など、20世紀初頭の前衛芸術との影響もうかがわせます。

Bunkamuraザ・ミュージアムにて「エリック・サティとその時代展」開催中

サティが生きた時代とさまざまな芸術家たちとの交流に焦点を当てた展覧会が、渋谷・Bunkamuraザ・ミュージアムにて開催されています。
「異端の作曲家 エリック・サティとその時代展」
■Bunkamuraザ・ミュージアム(東京都渋谷区道玄坂2−24−1)
■入館料等のチケット情報はHP参照(リンク先参照)
■〜8月30日(日曜)まで。開催期間中無休
■10:00-19:00(入館は18:30まで)
毎週金・土曜日は〜21:00(入館は〜20:30)
夏の「ジメ署」を一瞬の間、忘れることのできるような、エリック・サティの世界に触れてみてはいかがでしょうか。