夏休み中の映画館は家族連れで賑わっていますが、今夏上映中の作品はどれも話題性十分。人気作が目白押しですね!
現在は映画鑑賞のチャネルが多様化し、映画館はもちろんレンタル作品を自宅で、さらにモバイルで電車の中で……と鑑賞方法は多種多彩。
そこで、趣向を変えた鑑賞法をご紹介。ひとつめは、7/31〜8/23の期間限定で開催される「星空の映画祭」。もうひとつは、自宅鑑賞派におすすめの印象深くてシブい、夏を舞台にした邦画3本です。

北八ヶ岳ロープウェイ。この大自然の中で映画祭は開催(8/23まで)されています
北八ヶ岳ロープウェイ。この大自然の中で映画祭は開催(8/23まで)されています

星空の下でロマンチックに映画を鑑賞できる「星空の映画祭」

日本百名山の一つ、八ヶ岳の麓・長野県諏訪郡原村で開催中の「星空の映画祭」をご存じですか?
30年にわたって開催されてきた歴史をもつこの映画祭は、7月31日〜8月23日の夏休み期間限定で、ダイナミックかつロマンチックに高原の野外で映画を鑑賞できるもの。
毎年多くの人が、星に手が届きそうな大自然に囲まれた秘密の場所(原町 八ヶ岳自然文化圏 屋外ステージ)で、話題の新作から名作までを鑑賞している、知る人ぞ知る人気の映画館なのです。
夏の青空に映える立山連邦の絶景を楽しむドライブがてら、屋外での映画鑑賞も今夏の素敵な思い出になるはず。
興味のある人は、下記「あせてチェックしたい」の公式HPを参照のうえ、夏真っ盛りの長野へ足を運んでみては。
■星空の映画祭
開催期間/7月31日〜8月23日(日曜)
上映時間/開場19:00、上映開始20:00、雨天決行
会場/八ヶ岳自然文化園 野外ステージ
料金/当日券 おとな 1200円、こども(小・中学生)500円、未就学児無料
(日付・座席指定なしの全席自由席 )
その他詳細/上映スケジュール、アクセス等については公式HP参照
※終演は遅い時間になるため、車以外での参加の際は宿泊場所の確保をおすすめします。

小津安二郎「東京物語」

ここからは、若さはじける夏テイスト満載の青春映画ももちろんいいのですが、すこし前の日本が誇るすばらしい映画を3本ご紹介。いずれも夏を舞台にした名作中の名作です。自宅でゆっくり夏休みを過ごされる方の鑑賞作としてはうってつけといえるでしょう。
日本人にもっとも広く知られている映画の一つに小津安二郎(1903--1963)監督の「東京物語」(1953)があるのではないでしょうか。
舞台は60年前の東京です。平山周吉(笠智衆)ととみ(東山千栄子)の老夫婦は、子どもたちを頼って尾道から東京に観光にやってきます。ところが子どもたちは東京で自分たちの生活を始めています。
戦後日本の家族のあり方の変化が、この映画の一つのテーマとなっています。
この映画は白黒ですが、夏の庶民の暮らしぶりがそこここに描かれています。長女(杉村春子)の夫(中村伸郎)が周吉に「風呂に行きましょう」と声をかける場面、そして東京の子どもたちに追いやられて過ごす熱海の旅館の夜も暑そうです。
しかしなんといっても、とみが亡くなってしまった朝、周吉がもらす台詞「今日も暑うなるぞ」が印象的です。

小津安二郎「浮草」

同じ小津安二郎監督の「浮草」(1937)も夏の映画です。
旅芸人の一座がポンポン船で夏の巡業にやってきたのは、和歌山あたりの小さな港町ですが、この映画でも冒頭に船着場の待合室に一座のポスターを貼る青年が「今日も暑うなるで」とぼやくシーンがあります。
座頭である駒十郎(中村鴈治郎)とその連れ合いのすみ子(京マチ子)とが土砂降りの雨をはさんで大げんかをする有名な場面では、港町のうだるような暑さ、そしてたたきつけるような夕立が強烈なコントラストを作っています。

山中貞雄「人情紙風船」

小津安二郎とほぼ同世代ながら、若くして戦死してしまったのが、山中貞雄(1909--1938)です。一番の傑作はなんといっても遺作となった「人情紙風船」(1959)でしょう。
歌舞伎の「髪結新三」に題を取り、江戸の庶民の哀歓を描いたこの映画は、山中が当時28歳の作品です。
貧乏長屋には、しがない金魚売り、今でいえば美容師の髪結い、職につけない浪人たちが、逃げることのできない暑さの中で、もがくように懸命に生きています。彼らを見つめる山中の視線が、画面から感じられるようで感動的です。

山中貞雄「人情紙風船」の舞台・庶民が暮らす長屋
山中貞雄「人情紙風船」の舞台・庶民が暮らす長屋