ギリシア神話に登場する妖精メンテーから、その名をとられたという「ミント」。
消化の促進をはじめ、咳を鎮める効果、殺菌効果があるとされ、古くから人びとに愛されてきました。その原産地は地中海とも東北アジアとも言われ、旺盛な繁殖力から今や世界中に広がっています。
ガム、キャンディなどでおなじみのほか、最近では「ミントの葉をたっぷり入れたモヒートが最高!」という方も多いのでは? そんなミントの歴史に迫ってみました。

独特の清涼感を与えてくれるミント。ハーブティーでもおなじみですね
独特の清涼感を与えてくれるミント。ハーブティーでもおなじみですね

ミントの種類は、なんと600種類以上!

繁殖しやすく、交雑しやすいミント。そのため数多くの「種」「変種」が存在し、その数は600種類以上とも。アップルミント、オレンジミント、パイナップルミント、ベルガモットミント、ウォーターミント……と、確かにどれもどこかで聞いたことがある名前です。
そんなミントの種類は、大きく「スペアミント系」「ペパーミント系」の2つの系統に分けられます。
スペアミントは甘みのあるマイルドな香り。生のハーブとしてスーパーマーケットの店頭に並んでいるのは、多くがスペアミントです。
一方、ペパーミントはスペアミントよりも香りが強く、香水やハミガキ、リキュールの香りづけなどによく使われます。

古代メソポタミアから始まった? 人間とミントのつながり

世界最古の文明と言われる古代メソポタミア。粘土板に記された楔形(くさびがた)文字から、ミントを料理に使っていたことがわかっているそうです。また、古代エジプトでも、3種類のミントを目的に応じて使い分けていた記録があります。
中世ヨーロッパでもミントは愛用され、たとえばフランク王国のカール大帝(シャルルマーニュ)は、栽培すべきハーブの一つとしてミントを挙げています。ハーブは薬用や食用のほか、悪臭を抑える目的でも重宝されていました。
インフラが整備された現代と異なり、当時は「清潔な環境を保つ」ことが一大事だったのです。王侯貴族は、香りのよいハーブを床にまく専門の係(ストリューワー)を雇っていたと言われます。

エベレスト登山の疲れを癒した、ミントのお菓子

山歩きに興味のある方は、「ケンダルミントケーキ」をご存じかもしれません。英国の湖水地方で19世紀に考案された、ミントの香りのついた板状の砂糖菓子です。
軽量でかさばらず、手軽にエネルギー補給ができることから、多くの探検家、登山家に採用されました。エベレストに初登頂したことで知られるエドモンド・ヒラリーとテンジン・ノルゲイも、このミントケーキを携行していたそう。夏山のハイキングには、ミント味のお菓子を用意して、いにしえの登山家気分にひたるのもいいですね!

日本にも、もちろんあります! ご当地ミント

ミントはアジアでは「薄荷(ハッカ)」と呼ばれ、中国からシベリア、朝鮮半島、もちろん日本にも自生していました。和ハッカはペパーミント系でしたが、江戸時代の末期にスペアミント系も伝来。「オランダハッカ」と呼ばれ、各地で栽培が行われたようです。
日本のミント、と言って思い出すのは北海道・北見。物産展などで「ハッカ飴」や「ハッカ油」を買ったことがある方も多いのではないでしょうか。そんな北見でハッカ栽培が始まったのは明治時代のこと。一時は世界的な産地になるほど発展しましたが、外国産のハッカ、合成ハッカの登場で生産は激減。また、岡山県もハッカの一大産地でしたが、北見と似た経緯で衰退してしまいました。しかし、天然素材や地場産品が見直されるようになって、国産ハッカは再び注目されています。ハーブティーやハッカ入りのコスメ、ウェットティッシュなど、時代のニーズに合わせた新商品が開発されているのも、その一因かもしれませんね。
最後にご紹介するのは、新潟県・魚沼に伝わる「ハッカ糖」。
かつて和ハッカの自生地があったことから、ハッカを使ったお菓子が作られるようになったのだそうです。探せばまだまだありそうな、日本の食文化に根づいた「ミント」。
そういえば平安時代には、ハッカは山菜として食卓に上っていたそうですよ。
この夏、ハーブティーやミントティーを飲む機会があったら、知られざるミントの歴史にぜひ思いを馳せてみてくださいね。
参考:ゲイリー・アレン著(竹田円訳)「ハーブの歴史」、金城盛紀「読むハーブは美味しい」、農山漁村文化協会編「地域食材大百科」