甘味屋さんにあるのに、なぜかタレと芥子で食べる『ところてん』。甘い物が苦手な男性がデートで困らないように置いてあるのでしょうか。ピリッとした酸味が、蒸し暑い日にはサッパリと嬉しいですね。ところがなんと、関西の人は黒蜜で食べるのだとか! それは『葛きり』ではありませんか?

甘いところてん? ないない(関東人談)
甘いところてん? ないない(関東人談)

ところてんは海の幸! ダイエットに、クールダウンに、デトックスに

まずは混同されがちな『ところてん』と『葛きり』の違いをはっきりさせておきましょう。
『ところてん』は、海藻「天草(テングサ)」を煮出した液を冷やし固めて「天突き」で細い麺状に突き出したもの。乾燥させれば「寒天」ですね。『葛きり』は、植物「葛」の根からとれる粉を水で溶いて加熱し、板状に冷やし固めてからうどんのように細長く切りそろえたもの。ちょっとモチモチしています。
ついでながら『春雨』は緑豆などから、『白滝』はコンニャク芋から・・・おお。透明のツルツル食品は、原料もさまざまです。
ところてんは、海藻のヨードやカルシウムを含みます。ほぼカロリーゼロで食物繊維が豊富、ダイエット食に最適なのです。腸内の毒素や老廃物を吸収して体外に排出するので、便秘が原因の肌荒れやイライラも解消。免疫力がアップします。また体を冷やす効果があり、熱中症予防やのぼせ症・高血圧に効果があるといわれます。
子供の頃に風邪をひいたとき、葛湯を食べさせてもらった思い出をもつ方もいらっしゃるのでは。葛は滋養があって消化がよく、体を温める食べ物。病人食・離乳食・介護食として、また漢方薬として古くから用いられてきました。葛粉は希少なため、現在市販されている葛きりは、ジャガイモ澱粉で作られているものが多いそうです。ジャガイモには逆に体を冷やすはたらきが・・・暑さ対策には向いているのかもしれませんね。

こちらは葛きり。たしかに似てます・・・
こちらは葛きり。たしかに似てます・・・

味付けをめぐり郷土愛が炸裂! 旅先で味わうのも、お楽しみ

ところてんは、地方によって食べ方に特徴があり、味付けをめぐっては其処此処で軽いバトルが繰り広げられているようです。
二杯酢・三杯酢で「酢の物」風の食べ方から、酢みそなどの「あえもの」風、だし汁をはった「冷麺」風。トッピングもかつおぶし・ゴマ・ゆず・七味・わさび・海苔などさまざま。黒蜜ではなく梅蜜やきな粉をまぶしたりと、甘い食べ方もいろいろ。味が淡白なので、その土地の美味しいものと組み合わせて楽しまれてきたと思われます。
関東では、江戸時代から酢醤油と芥子が一般的。調味料として醤油が普及していたからなのですが、なかには砂糖をかける人もいたそうです。江戸での値段は、今でいうと1杯1000円くらい。ちょっと奮発したおやつだったようです。
関西では黒蜜をかけて食べるのが一般的です。玉子焼きを甘くしない関西の人たちが、なぜところてんは甘くして食べるのか・・・葛きりと同じくデザート的な立ち位置になっているのでしょうか。東京で ところてんを食べた京都の友人は「まちがって『もずく』頼んだかと思った」と憤慨していました。仲良しの人が、じつは意外な味つけで食べていたりするのも面白いですね。皆様の「普通」のところてんは、何味でしょうか。
日本各地のところてんの食べ方にご興味のある方は、リンク先のマップもご覧くださいね!

細いのに、なぜか『心太』。スルスルっといけちゃいます!

漢字で書くと『心太』。「こころぶと」という呼び名もあり、テングサの煮凝りを意味する「こごる太(い海藻)」が転じたものと考えられています。煮出して固める製造法は、中国から遣唐使が持ち帰ったそうです。
正倉院の書物には「心天」とあり、奈良時代にはすでに「ところてん」または「こころてん」と呼ばれていたようです。一説には「太」を「天」と書きまちがえたものが定着したとも、原料の「天草」と合体したともいわれます。当時は宮中の儀式にも使われていました。
「心細い」の反対語は「心強い」。「心太い」は なぜか日常あまり使われませんが、物事に動じない大胆さを意味する言葉のようです。『ところてん式』とは、後から来る者に押し出されて前に出る状況。「何の努力もしないで押されるままに進んだり物事を終えたりすること」という意味だそうです。あのスルスルっと抵抗ない感じが、ちょっと羨ましい自然体に見えるのかもしれませんね。
食欲のないときにものど越しのよい心太。お気に入りの味付けで、スルスルっと涼しくなりましょう。