爽やかな風がすがすがしい季節、ヨーロッパでは音楽祭シーズンが始まります。
中でも独自の発展を遂げているのが、グラインドボーン音楽祭(Glyndebourne Festival)。
イギリスのイースト・サセックス州にある個人の邸宅の音楽堂で開かれてきた音楽祭で、オペラはもちろん、自然を愛するイギリスらしく羊を眺めながら正装でのピクニックが有名です。
魅力あふれるグラインドボーン音楽祭について、一部をご紹介します。

グラインドボーン・ハウスと庭でピクニックを楽しむ観客。
グラインドボーン・ハウスと庭でピクニックを楽しむ観客。

それはラブストーリーから始まった

グラインドボーン音楽祭は1934年に創設者のジョン・クリスティ(John Christie)がソプラノ歌手のオードリー(Audrey Mildmay)と出会い、恋に落ちたことから始まりました。
今では世界でも名高いオペラハウスとして、春から秋にかけて15万人もの聴衆を惹きつける音楽祭に成長し、創設者の孫である、ガス(Gus Christie)が音楽祭の主催を引き継いでいます。
観客は主にロンドンからやってきます。車なら2時間半ほど、列車の場合はビクトリア駅から約1時間で最寄りのルイス駅へ、そこから専用バスで約10分で到着です。
広大な牧草地帯の中に佇むのが、クリスティ家の邸宅であるグラインドボーン・ハウス。屋敷の前には自然を大切にした素朴なイングリッシュ・ガーデンが広がります。
名物はなんと羊、そしてピクニック!!

羊の横でお酒を嗜むカップル。お洒落!
羊の横でお酒を嗜むカップル。お洒落!

羊を愛でながらシャンパングラスを傾けるひと時

オペラ鑑賞にはドレスコードがあるのですが、タキシードやイブニングドレスに身を包んだ紳士や淑女たちは、開演前や幕間に庭でピクニックを楽しむのが恒例です。
観客たちは愛用の折りたたみ椅子やテーブル、グラスにカトラリー、食事の入ったクーラーバッグを車に積んでやってきます。芝生の上にセッティングして食事をするのですが、イギリス人らしくテーブルクロスは必須! 中には卓上に花を飾る人もいるほどで、さながら草上の社交界のよう。周囲では羊たちがのどかに草を食んでいます。
グラスを手に羊を愛でながらそぞろ歩きをし、自然やおだやかな時間の流れを感じて優雅なひと時を楽しむのです。

チケットを入手した時から音楽祭はスタート

以前は300席だったためチケット入手は困難でしたが、オペラハウスを建て替え1200席となった現在は、WEBサイトからも購入できるようになりました。
チケットを購入すると、ずっしり重いパンフレットが郵送されてきます。
中にはグラインドボーンの案内と共に、幕間に楽しめるワインリストと食事のプリフィクスメニューが入っていて、全て事前予約が可能。しかも、前菜・メイン・デザートとそれぞれ選ぶことができ、とても美味しいと評判です。レストランにはビュッフェスタイルもある他、庭でテーブルや椅子・食事のセッティング一式を頼むこともできるので、グラインドボーン風ピクニックを満喫できるようになっています。

自然を愛し音楽祭の夢を紡ぐ

今年、2015年のフェスティバル開幕は5月21日。演目はイギリス初演となるドニゼッティの「ボリウト」をはじめ、ビゼーの「カルメン」やモーツァルト、ブリテン、ヘンデル、ラヴェルと質の高いパフォーマンスが8月末まで続きます。
こじんまりしたオペラハウスですが、椅子は木製でシックな雰囲気。響きもよく中世のヨーロッパで観劇しているような錯覚にとらわれます。
ここに宿泊施設はありませんが、終演に合せて専用バス・電車が運行していますし、駐車場は無料なので、ロンドンから日帰りで来られるのも魅力の一つです。
クリスティ家の3代目の当主であるガスは、2005年のグラインドボーン音楽祭に出演したソプラノ歌手、ダニエル・ドゥ・ニース(Danielle de Niese)と知り合って結婚、この6月に男の子が誕生しました。
創設者と同じくオペラ歌手とのラブストーリーを紡ぎ、この地を委ねる後継ぎも生まれたガス。グラインドボーンの思いは創設から80年を過ぎた今後も続いていくことでしょう。
他にはない魅力を持つグラインドボーン音楽祭。
機会がありましたら、一度いらしてみてはいかがでしょうか?

参考URL:グラインドボーン音楽祭HP(リンク先参照)