東北地方も梅雨入りし、うっとうしい日々が続きますが、暦変わって七十二候≪菖蒲華~あやめ はなさく~≫(6月27日~7月1日)となりました。すでに全国各地で「あやめ祭り」が次々と開かれ、紫色の花たちがたおやかな美を競っています。今年は例年よりも少し早く咲く場所も多いようで、花の時期が終わりきらないうちに、アヤメ科の花たちについて少し思いを寄せてみましょう。

よく似ているアヤメ科の花たち。咲く順番は?花の特徴は?

「菖蒲」と書いて、「あやめ」とも「しょうぶ」とも読むのでなんとも紛らわしいのですが、「あやめ」と「しょうぶ」は別の植物。端午の節句で用いられるショウブはサトイモ科の植物だということはご存じの方も多いことでしょう。
初夏のころから、紫色の優美な花をまっすぐな茎に凛と咲かせるのは、アヤメ科の花「アヤメ」や「ハナショウブ」。
「いずれがアヤメかカキツバタ」と美しさに甲乙つけがたいたとえに使われる「杜若(カキツバタ)」もまたアヤメ科。室町時代に中国から伝わったと言われる「イチハツ」。欧州原産で明治時代に伝わり野生化した「キショウブ」などもあり、どの花も実に高貴な品格あるたたずまいです。
「アヤメ科の花はどれもよく似ていて、違いがよくわからない」という方のために、ここでちょっとだけおさらい。実は、少しずつ開花時期や特徴が異なるので意外と見分けるのは簡単なようです。
◆イチハツ(一初)開花時期4~5月/やや小ぶりで花びらにトサカ状の突起がある ※アヤメ類で最も早く咲くのでこの名がついたとか ※乾いた土地に生育
◆アヤメ(菖蒲、文目)開花時期5月上中旬/外花被(弁)のつけ根に網目模様がある ※乾いた土地に生育
◆カキツバタ(杜若)開花時期5月中下旬/外花被(弁)のつけ根に細長く白いすじ ※水辺に生育
◆キショウブ(黄菖蒲)開花時期5~6月/花全体が黄色い ※水辺や湿地に生育
◆ハナショウブ(花菖蒲)開花時期6月/外花被(弁)のつけ根に黄色い目がある ※湿地に生育
ポイントは、一番外側の花びらに見える(実はガク)外花被(弁)の模様や色、咲いている場所。これらをなんとなく頭に入れておけば、誰でも見分けることができそうですね。※開花時期は気候や土地によって変動します。

江戸時代からお武家さまにも愛された花菖蒲。花菖蒲中興の祖「菖翁」松平定朝

現代の私たちがアヤメ科の花を愛でるとすれば、やはり各地にある菖蒲園へ訪れる場合が多いことと思います。東京都内にも堀切菖蒲園や明治神宮御苑など、見事な名園が随所にあります。
その栽培の起源については、江戸時代前期までさかのぼり、ノハナショウブ(花菖蒲の野生種)の中から変わったものが集められて、大名家の屋敷に持ち込まれたのが始まりだとか。
江戸時代の中期になると、花菖蒲は庶民の手にもわたり、さまざまに花色や花形が変化し、大輪咲き、八重咲きなども現れるようになったそうです。
そのころ、生涯をかけて花菖蒲の改良に努めたのが、旗本の松平定朝。
(同じく花菖蒲好きだった父・松平定寅は、あの鬼平・長谷川平蔵のライバルだったとか)。
定朝は隠居後、菖翁(しょうおう)と名乗り、84歳で亡くなるまで花菖蒲の品種改良に専念しました。菖翁が生み出した品種は約300品種にものぼり、堀切の花菖蒲園や肥後に伝わったことで、花菖蒲が全国に広がったのです。今もその一部は往時のままに大切に守られ、例えば写真の「宇宙」は菖翁が生み出した傑作の一つ。その名にふさわしい澄み切った色と神々しいまでの風格で見る者の心をとらえます。

菖翁花/宇宙
菖翁花/宇宙

これから見頃な平泉・毛越寺の花菖蒲、北海道・厚岸のヒオウギアヤメ

関東近辺の菖蒲園は盛りを過ぎましたが、これから花の見頃を迎える場所は北上していきます。
例えば、岩手県平泉の世界遺産「毛越寺(もうつうじ)」では、鏡のように美しい大泉が池周辺のあやめ園に、300種、3万株の花菖蒲が咲き誇ります。
また、北海道厚岸(あっけし)では、6月下旬~7月上旬にかけて約30万株のヒオウギアヤメが一面に咲き、『あっけしあやめまつり』が開催されます。チンベの鼻と呼ばれる海に突き出た場所にある“あやめヶ原”は、100haの広大な原生花園に、ヒオウギアヤメをはじめ100種類以上の草花が次々と咲く、北の大地の花の名所です。

――さて最後にもうちょっとだけ。アヤメ科の花を、もしもご自宅で切り花で楽しまれる場合は、花が枯れた後、すぐに捨てないでくださいね。くしゅっとしぼんだ花びらだけを摘んだ後、そのまま活けておくと、あら不思議。再び花芽が出て、もう一輪咲くこともありますのでお楽しみに。美しさも2倍、花を愛でる喜びも2倍で、なんだかうれしくなりますね。
※参考&引用
明治神宮「御苑の花菖蒲」