梅の実が黄色く色づく頃(6月16日〜21日頃)です。熟した梅で作るものといえば、もちろん「梅干し」、ですよね! 血の毒・水の毒・食の毒。これら『三毒』を断つとされ、古くから日本人の健康を支えてきました。梅はその日の難逃れ。梅雨の一日こそ、小さな一粒のパワーで癒され、まもられたいのです。

花も実もある木でした
花も実もある木でした

梅のことを考えると、「のどが潤う」のはなぜでしょう

梅干しを食べた経験のある人は、「梅干し」と聞いただけで自動的に唾液が出てしまいます。『パブロフの犬』で有名な、条件反射ですね。
唾液は、口や胃の粘膜を刺激の強い食品から守るために出るといわれます。とくに塩味と酸味に反応し、まさにその両方を兼ね備えている梅干しは、レモンの倍もの唾液量を分泌させるのだそうです。酸っぱいものは食欲もわきますね。
歴史物語『三国志』で知られる「梅林止渇」という故事があります。
昔の中国、魏の曹操が張繍征伐に出向いた時、炎暑の中を行軍していて道に迷い、水もなく兵士は渇きに苦しみだしました。曹操はとっさに「この先に行けば、小梅の熟した梅林がある。それを思う存分食べて、渇きを癒せ」と偽って進むうちに、兵士は皆、口の中に唾液が出て、喉の渇きを忘れることができたというのです。
体内の水分量が増えるわけではないでしょうが、酸っぱいものを想像して出る唾液はサラサラしているので、一時的にせよ喉は潤って元気が出たのかもしれません。非常の際は試してみたいと思います。
唾液には、酵素が含まれています。
エネルギー源となるご飯やパンのでんぷんの消化をたすける「アミラーゼ」。ガンや老化の原因となる活性酸素を抑える「カタラーゼ」。抗酸化食品としても、梅干しは大活躍なのです。殺菌効果をもつ唾液がよく出ることで、歯も汚れにくくなります。
熟した梅は、うるおいと若さを保つ手助けをしてくれるのですね!

ごはんの真ん中に、今日一日の祈りをこめて

程よい味加減を表すときに使われる言葉、「いい塩梅(あんばい)」・・・塩はわかるとして、なぜ梅?と思っていたら、昔は塩と梅酢で調味していたのだそうです。塩に漬けた梅の実から自然に出てくるのが梅酢。『塩梅』は もともと「えんばい」と読んでいたのですが、「ものごとを程よく処理する」意味の『按排(あんばい)』と混同された形で定着したといわれています。爽やかな香りをお料理やドリンクに加えてみては。
梅干しが酸っぱいのは、クエン酸が多く含まれているため。梅酢に漬け込み、干して凝縮されて、さらに強烈な酸味になるのですね。
クエン酸は、一日の「難」から体をまもってくれます。疲れを癒し、食中毒を予防し、乗り物酔いの防止まで! 梅干しほど「お弁当」にぴったりの食べ物はありません。『日の丸弁当』や遠足のおにぎりに入っているのは、理にかなった昔ながらの知恵だったのです。旅館の朝ごはんに梅干しが出されるのも、旅立つ人の無事を祈って送り出していた名残といわれます。

まるくて赤いお守り
まるくて赤いお守り

平安の頃から、薬として携帯食として日本人の健康を支えてきた梅干し。現在も、海外旅行の荷物に必ず入れるという方が多くいらっしゃるようです。
江戸時代後半に本草学者・小野蘭山によって書かれた『飲膳摘要(いんぜんてきよう)』では、「梅干しの七徳」が紹介されています。
【梅干しの七徳】
1.毒消しに効あり。ゆえにうどんには必ず梅干しを添えて出す。
2.防腐に効あり。夏は飯櫃の底に梅干し1個を入れておけば、その飯は腐らず。
3.疫気を避けるに効あり。旅館では朝食に必ず梅干しを添えるを常とする。
4.その味かえず。
5.息づかいに効あり。走る際、梅干し1粒口に含めば息切れず。
6.頭痛を医するに効り。 婦人頭痛する毎に梅干しをこめかみに貼るを常とする。
7.梅干しよりなる梅酢は、流行病に効あり。
体験に基づいた効能は、説得力がありますね。のちにコレラが大流行したときも、江戸の人々は「コレラ菌は有機酸に弱い菌である」などということは知らなくても、梅干しの殺菌力を治療に役立てたといいます。梅干しは1日2〜3粒くらいまでが適量とのこと、塩分の摂り過ぎにはくれぐれもご注意を。
じとじと蒸し暑い日が続くと食欲もなくなりがちですが、一粒の梅干しで元気をチャージしたいですね。海苔とネギとともに食べると、さらに効果的なのだとか・・・今夜は手巻きずしなどいかがでしょう。
梅干しを使ったレシピは、リンク先も参考になさってくださいね。